職業性熱中症を予防する
「こうちさんぽメールマガジン」2011.7月号より
高知産業保健推進センター特別相談員 田内 孝也
熱中症は、高温多湿な環境で体内の水分と塩分のバランスが崩れ、循環調節や体温調節などの体内調節機能の破壊により発症する障害であり、初期対応の如何によっては、現代の最先端医療を用いても死に至ることがある、恐ろしい疾病である。
しかし、適切な予防と初期対応により重篤度の軽減を図り、発症をくい止めることも充分可能である。昨年夏、日本各地で数百年に一度とも言える驚異的な猛暑を記録し、職業性熱中症による死亡者は、平成になってから以降最多を記録することとなった。高知県でも死亡には至らないまでも入院治療を要する事例が数件発生している。
そもそも、職業性熱中症の発生は、作業の強度、環境、着衣、保護具、個人の体調等が影響し、特に、その日の体調、暑熱環境への順化の度合い等の影響が大きい。私も以前に、七月の梅雨明け、朝から急激に気温が上昇した日の午後3時、現場就労2日目の鉄筋工が熱けいれんを発症した苦い経験がある。後で知ったが、彼は、前日、いや当日の夜明け迄、友人と酒を酌み交わしていたらしく、今の知識があれば、当日の朝礼、点呼で充分に防ぐことができた事例である。
昨今、「WBGT値」(暑さ指数)による評価法の活用を良く耳にするが、基準とする値の設定とその身体作業強度に関する参考例等は、就業に係る地域、環境、業種並びに人的要因によりバラつきを感じ、作業中止に係る基準値として取り扱うには少々乱暴な値だと考える。ただ、測定値と基準値を下に、適切な作業管理、衛生管理を進めて行く上では充分な効果が期待され、例えば衛生管理の指標として設定するなら、作業者の休憩頻度、時間、場所、経口補水液等の摂取時期、着衣、保護具等の交換時期であり、管理者による巡回、点呼の実施時期である。高知の夏は、屋内・外を問わず厳しい暑熱環境下での作業を強いられる。特に作業者が暑さへの順化ができていない夏本番までの期間に、社内での教育・訓練を実施し、熱中症予防の為の知識、発生時の救急措置等を徹底することが肝要である。
安全管理と同様、特効薬の無い熱中症は職域に於ける日々の予防と管理手法の創意工夫、そして確実な実践により防げるものと確信する。