お知らせ

職場の「備え」としてのリスク管理

「こうちさんぽメールマガジン」2011.12月号より

(社)日本労働安全衛生コンサルタント会高知支部 支部長 田内 孝也

健全に企業を存続させるには、そこで働く人々の安全と健康の確保が大前提であり、常にそれを脅かす事象への備えが必要である。特に、3.11東日本大震災以降、「備え」に対する意識の高まりを実感する。一方、職場での日常業務に於ける事故、災害に対する備えはと言うと必ずしも万全とは感じない。例えば、熟練労働者は根拠の無い感に頼り経験を過信する。新規の者は知識の無さと技能の未熟を「ーだろう」に任せる。更に管理者は昨日の続きの安穏を想定する。これは正に「人災」であり、人のエラーとして済まされるものではない。従って、備えを万全にと望むなら日常業務でリスク管理を怠ってはならない。
ヒューマンエラーが全て「人災」と言う訳ではないが、放置すれば必ずエスカレートする。ルール違反、不法行為等も同様に放っておくとそのまま職場の常識として広く受け入れられることになる。恐ろしい状況だ。「黙っていれば、分からない」「見つからなければ、構わない」「ちょっとだから、許される」も同じようなものだ。「近道」「省略」を漫然と行う自分自身を、利益の為に、生産性の為にと身勝手な持論で正当化し、自らに言い聞かせ、自らを説得するような軽率な行為は、少なくとも職場では謹んで欲しい。近年、職場第一線に於ける現場力の衰退が嘆かれる。高度成長の時代、あらゆる生産の場では事故・災害を防止することに邁進した。そして事故・災害の無い安定操業を目指した。その過程では、幾多の困難、犠牲を払い、労働者が体験の下、事故・災害を防止する術を身に付けた。これも一つの現場力である。
残念ながら、安定操業の下では前述のような事故・災害の発生による体験型の現場力を身につけることは難しく、これも現場力低下に至る所以である。また、人の力には衰えが有ると言うことを知っておくことも必要だ。視力、聴力、体力は限界もあれば加齢と共に低下もする。現場力も同様に人が発揮する力であることを知り、リスク管理の必要性がある。また、現場力は、事故・災害の発生で学ぶものでも無い。専ら日常の安全管理業務を進める中で技術・技能として身に付けることが本来の姿であり「これからの安全・衛生管理」を定着させるには特に大事なことである。今、職場に於ける労働安全・衛生業務は再発防止型から、「先取り型」のいわゆる「これからの安全・衛生管理」へ早急なシフトが必要である。しかし、その中枢にあるリスクアセスメントの普及、促進が芳しくない。リスクアセスメントの実践は、職場に潜むリスクの顕在化と危険度ランクに応じた措置の優先度を合理的に決定し、労働者はその活動に参画することで危険に対する感受性を高め、日常業務でのリスクを知り、更に、職場で自分達が実施しなければならないことを認識する。これが1つの現場力の醸成であり、その過程は力の衰えに対する手当としての効果も期待できる。
リスクアセスメントは労働災害防止措置を論理的に導き出す手法であり、その過程は教育・訓練の場として捉えるなら、労働者のスキルアップに欠かせない。更にリスク評価とその管理を労働災害の発生要因にこだわらず、顧客、サービスの提供、薬品、化学物質の取扱い等、事業活動全般にその対象を広げることにより、リスク管理が事業活動に於ける「備え」としての効果を存分に発揮してくれることだろう。

ご相談・ご要望を受け付けています。

ご利用時間:午前8時30分~午後5時15分(土・日曜日・祝祭日、年末年始除く)

PAGE TOP