メタボリックシンドロームと健康診断
産業保健情報誌「産業保健こうち」2008.1月号より
高知産業保健推進センター基幹相談員 森木 光司
メタボリックシンドロームについて
最近、メタボリックシンドローム、略して”メタボ”という言葉をよく聞くようになりました。日本語にはなかなか訳しにくいのですが、あえて考えると次のようになります。
私たちの体内では、体外から取り入れた食物等の栄養物を消化吸収し、この栄養物を生命維持のためにさまざまな物質に分解あるいは合成していますが、この反応を代謝=メタボリズムといいます。このメタボリズムが異常昂進して、余計な脂肪が内臓に蓄積し、これを放置すると生命の危機に関わる重症の病気・状態を、メタボリックシンドロームと呼ぶようになりました。
内臓に脂肪(内臓脂肪、この中に動脈硬化を引き起こす悪玉アディポサイトカインという物質が多く含まれていることがわかってきました)がたまる肥満の原因として、以前から不適切な生活習慣(食べ過ぎ、運動不足、飲酒、喫煙など)があげられ、その結果「高血糖⇒糖尿病」、「高血圧」、「血中脂質の異常⇒高脂血症」などがおこり、これらが関連性を持って密接に重なり合った病的状態がメタボリックシンドロームなのです。このまま放置しますと、動脈硬化が進行・増悪して、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、腎不全(人工透析)などの生命を脅かす病気や合併症が発症するといわれています。
メタボリックシンドロームの診断基準
以下の基準にあてはまる場合が、メタボリックシンドロームです。
1.の必須項目があり、それに加えて2.の選択項目のうち2つ以上の項目がある場合を、メタボリックシンドロームと診断します。選択項目単独では直ちに重症化するわけではないのですが、これらの項目は代謝面で密接に関連していて、悪影響しながら重篤な状況になりやすいのです。
厚生労働省によれば、現在40~74歳の男性で2人に1人、女性では5人に1人が、このメタボリックシンドロームが強く疑われるか、その予備軍と考えられ、その数は1900万人ともいわれています。(しかもこれらの人々では、殆ど自覚症状が無く、大したことはないだろうと考えられがちです)
このため、2008年(平成20年)4月から、現在行われている住民基本健診が「特定健診」というものに変わり、これに「特定保健指導」が加わって、共に医療保険者に義務化されます。そして2015年(平成27年)までにメタボリックシンドロームを25%減少させることを目指しています。事業所で働く人々の健康診断にも、この方針が当然取り入れられ、わが国のメタボリックシンドロームを減少させる取り組みが行われ始めました。
メタボリックシンドロームの予防と治療
- メタボリックシンドロームの予防今までみてきましたように、メタボリックシンドロームは、不適切な生活習慣に端を発するものでした。したがって、この不適切な生活習慣を正すことです。そしてそれぞれの時期に、適切な健康診断(特定健診)と保健指導を受けて、それ以上の病的状態に陥らないように、各人が自分の健康に留意してほしいのです。(特定健診と保健指導を受けないと何らかのペナルティが考えられています)
- メタボリックシンドロームの治療この治療は、1.の予防の生活習慣の修正法が基本であり、これに加えて、おのおのの疾患(高血圧症、高脂血症、糖尿病など)について、状況に応じた薬物療法などを行います。
メタボリックシンドロームの考え方
メタボリックシンドロームは最近出来たばかりの概念であり、その診断基準や考え方にまだ多くの意見や異論もあり(特に、腹囲や高血圧の基準、心筋梗塞、脳卒中などの発症との関連性など)、早速これらを見直す大規模調査が始められます。その他の研究なども今後も続けられるわけで、こうした診断・治療の環境は、いっそう発展するものと思われますが、不適切な生活習慣が最大の原因であることには変わりないので、私たちはこの改善に向かっていかなければならないと思います。
今までみてきたメタボリックシンドロームの診断・予防・治療と、特定健診、保健指導の流れを図示すると次のようになります。
(文献1、2)
生活習慣病の発症予防・重症化予防対策の分析・評価指標
~メタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防~
(各医療保険者、都道府県、国レベルで以下のような分析・評価を行い、生活習慣病の減少に努める。)
労働安全衛生法とメタボリックシンドローム
労働安全衛生法における健康診断にも、当然、このメタボリックシンドロームの要素が入ってきます。すなわち、雇い入れ時と35歳時および40歳以上の労働者の健康診断項目に、「腹囲」の測定を追加、さらに総コレステロール量に代えて、LDLコレステロールの量(単独でも動脈硬化を生ずるといわれ、俗に悪玉コレステロールといわれています)を測定することが決められました。
この新たな健康診断は、2008年(平成20年)4月から施行されますが、医師の判断で省略しても良い項目もあり、また高知県方式による特定健診では、ヘモグロビンA1cが必須項目になるなど多少の変更もあり、その比較表を示しておきます。