耳栓について
産業保健情報誌「産業保健こうち」2008.1月号より
労働衛生工学相談員 門田 義彦
あなたの職場には、騒音で会話が聞き取れない作業場がありませんか?大声を出さないと会話できない作業場では、騒音が85dB(LAeq(デシベル))を超えているかも知れません。85dB(LAeq)以上の騒音作業場で長期間働き続けると、職業性難聴となってしまう危険性が高まります。こういった騒音作業場では、対策としてよく耳栓が使われます。
おそろしい職業性難聴
職業性難聴は、症状が進行すると治療が困難となるおそろしい労働疾病です。初期には徐々に聴力が失われることや会話域よりも高い周波数の聴力が失われます。このため、本人は、なかなか気がつきません。騒音の大きな職場では、騒音対策とあわせて、配置前や6か月に一度の定期健康診断が必要です。また騒音には、イライラや注意力減退などの心理的な影響があり、作業能率の低下や不注意による事故発生の原因となってしまいます。
耳栓の前に
作業場の騒音対策として、耳栓を利用する前にしなければならないことがあります。まず騒音測定をすること、次に耳栓に頼らずに、騒音を低くすることができないかを検討することです。
作業場の騒音がどれだけかを把握していないと、耳栓の効果がわかりません。さらに騒音対策を検討する上でも測定結果が必要となります。対策検討には、騒音の周波数分析もした方がいいでしょう。厚生労働省の「騒音障害防止のためのガイドライン」では、騒音の作業環境測定を、6か月に一度定期に実施する作業場を定めています。
次に騒音対策として、工学的な対策を検討してください。安易に耳栓だけに頼ると、着用が個人任せとなってしまい、不着用やうまく着用できない作業者がでます。
工学的対策は、まず低騒音機械への転換、防音カバーや吸音ダクトを採用するなどの騒音源対策を検討します。次に機械の配置を工夫したり、防音壁を採用したりする騒音伝搬対策を検討します。これらの工学的対策を検討した上で、コスト等により困難な場合や施工までの応急措置として耳栓を使います。
耳栓の種類
耳栓は、性能によって種類がありますので、作業場の騒音にあったものを選びます。日本工業規格には、表のとおり、防音保護具の規格があります。このうち耳栓には、低音から高音まで遮へいするJIS第1種型と、主として高音を遮音し、会話域程度の低音を比較的とおすJIS第2種型があります。JIS第2種型は、耳栓をして会話がある程度可能ですが、会話域の周波数騒音が大きい作業場では、十分な遮音効果は期待できません。このため耳栓の選択は、メーカーのカタログ等に記載されている周波数ごとの遮音値と、作業場騒音の特性を比較する必要があります。また、非常に騒音の大きい作業場では、耳栓と耳覆い(イヤーマフ)を併用すると高い遮音効果が期待できます。
表 防音保護具(JIST8161)
種類 | 記号 | 周波数(Hz) | |||||||
125 | 250 | 500 | 1000 | 2000 | 4000 | 8000 | |||
耳栓 | 1種 | EP-1 | 10dB以上 | 15dB以上 | 15dB以上 | 20dB以上 | 25dB以上 | 25dB以上 | 20dB以上 |
耳栓 | 2種 | EP-2 | 10dB未満 | 10dB未満 | 10dB未満 | 20dB未満 | 20dB以上 | 25dB以上 | 20dB以上 |
耳覆い | EM | 5dB以上 | 10dB以上 | 10dB以上 | 25dB以上 | 35dB以上 | 35dB以上 | 20dB以上 |
なお、騒音作業場では、作業者は騒音の影響や耳栓を着用しているため、館内放送や警報が聞き取りにくくなります。こういった作業場では、光や色による警報の工夫をしてください。
耳栓の正しい装着
耳栓の遮音値は、正しく着用したときに得られる効果です。ゆるく着用した場合には、十分な効果は期待できません。着用は、写真に示すように、着用する耳と反対側の手を頭の後に回して、耳殻の上をつまんで、後上方に引っ張って、耳の穴を真っすぐにして、耳栓を強く差し込みます。
騒音の大きな作業場では、職業性難聴のこわさや耳栓の着用方法を、日常のミーティングや安全教育をとおして、繰り返し徹底するようにしてください。つい「めんどくさい」や「ちょっとの時間だから」との理由で、耳栓の不着用者がいないようにしましょう。
職場の騒音測定、騒音対策、耳栓の選択及び安全教育などについて、お困りの際には、ぜひ当センターの無料相談窓口を利用してください。