自殺防止対策 職場の定期健康診断で「うつ病検査」
「こうちさんぽメールマガジン」2010.8月号より
メンタルヘルス対策支援センター相談員 影山 淳子
平成10年以降12年連続で3万人を超える自殺者が出ている現状に対して、5月29日付高知新聞の朝刊に載ったように、厚生労働省の「自殺・うつ病対策プロジェクトチーム」は、企業が実施する職場の定期健康診断に、うつ病などの精神疾患に関する検査項目を盛り込んだり、失業者へのメール相談事業を強化したりすることを柱とした自殺防止対策を打ち出している。
この対策は、職場で強い不安や悩み、ストレスがあると回答した労働者は58.0%(2007年厚生労働省調査)、また、昨年の自殺者32,845人の内、「失業」が原因は前年度比65.3%増の1,071人(警察庁の調べ)であり、職場での強いストレスなどに起因する精神疾患や、失業による生活苦から自殺するケースが多く見られたことから、早期発見で症状の悪化や自殺を減らすことを狙ったものである。
具体的には、厚生労働省は、2011年度中の実施をめざし、労働安全衛生法を改正して健康診断の追加項目(メンタルヘルスのための「簡易調査票」56の質問項目)を実施。その結果、メンタルヘルス不調者に対しては適切な対応が行われるよう、都道府県の「メンタルヘルス支援センター」などの臨床心理士や精神科の医師が、産業医や中小企業の管理職を対象に研修を実施するとしている。ただ、メンタル不調者が、プライバシーの問題や不利益を被らないよう配慮し、効果的な方法を慎重に検討する考えである。
また、メール相談事業の強化については、ハローワークに来所した求職者を対象に心の健康状態を尋ね、深刻なストレスがあった場合は専門家とメール相談出来る仕組みとなっている。
一瞬にして世界規模の経済不況の波に飲み込まれる昨今、企業は生き残りをかけて、業績と効率化を第一主義とせざるを得なく、これは高知の山奥の企業も例外ではない。リストラの波の中、人と人の関係は築きにくく、コミュニケーションも薄れ益々働きにくい世の中となってしまった。職場での強い不安や悩み、ストレスの生まれる背景にはこのようなことも一因として考えられるのである。
今回の対策を見て、「あ~やっと!」という思いと期待を持つが、法律がどのように整ったとしても、「私たちの身近なところからメンタル不全者を出さない」という強い気概を持ち、企業の組織を上げての取り組みと一人ひとりの心構えが大切なのである。
相談を受けていて思うことは、人と人との絆、周りの人への暖かい傾聴の姿勢があれば、どんなにか人は救われるのにということである。相手の言う言葉を否定せず、耳を傾けて相手の気持ちを感じ取ろうとする姿勢。人は「私のことを心底理解し、わかってくれている人が1人でもいる」という強い思いを持つことができれば、例え悲嘆に暮れ落ち込むことがあっても、また、明日に向かって一歩が踏み出せるものである。
メンタル不全者を発見し医療に結びつけることも大切だが、そうならないよう、隣の人とほんの少しの傾聴の心を持った交流をと呼びかけたい。自分を救ってくれるのは、遠い親戚ではなく、身近な他人なのである。