においの話
「こうちさんぽメールマガジン」2010.11月号より
労働衛生工学相談員 中西淳一
においを発する化学物質は数十万種類もあると言われていますが、私たちが日常生活において悪臭と感じる化学物質には、悪臭防止法で特定悪臭物質として指定されている22物質(アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸)以外にも数多くあります。
それらの中で、四大悪臭物質と呼ばれる代表的な悪臭物質と、人の鼻で感知できる限界濃度(感知限界濃度)を下表に示します。
代表的な悪臭物質 | においの種類 | 感知限界濃度 (空気中のppm濃度) |
アンモニア | トイレ臭 | 0.15 |
メチルメルカプタン | 腐ったタマネギのにおい | 0.0001 |
硫化水素 | 腐った卵のにおい | 0.0005 |
トリメチルアミン | 腐った魚のにおい | 0.0001 |
表からは、これらの化学物質の感知限界濃度が非常に低いことがお分かりいただけると思います。この感知限界濃度の値は、においセンサーや最新の分析機器でも感知できないほど微量な濃度です。
そして、このことは、私たち人類が古来より食べ物を摂取しようとする時に食べ物のにおいを嗅いで、腐っていないかどうかを判断するために非常に大切な感覚として備わっている能力でもあります。
一方、空気中の悪臭物質の実際の濃度と、においとして感じる強さとの間には比例関係がありません。嗅覚に限らず、人の感覚には、刺激強度と感覚量の間にウェーバー・フェヒナーの法則が成立すると言われています。
つまり、空気中の悪臭物質の濃度が2倍になっても、においの強さは20%程度しか強く感じられず、逆に、濃度が半分になっても、においの強さは20%程度しか弱く感じられないというわけです。
さて、悪臭に限らず、塗料や溶媒等として有機溶剤を使用する作業を行う際に、最初はにおいを感じても、時間が経過するにつれて感覚が麻痺し、においを感じなくなってしまい、急性・慢性の有機溶剤中毒の症状を呈することがあります。発生源対策として局所排気装置を設置・稼働させることはもちろんのこと、衛生保護具として有機溶剤用の防毒マスクを着用して作業しましょう。