正常性バイアスとは?
「こうちさんぽメールマガジン」2011.5月号より
労働衛生工学担当相談員 門田 義彦
このたびの震災で多大なる被害が出ました。被災された方々や関係者の方々には心よりお見舞い申し上げます。この原稿を書いている4月の時点では、まだ事態は収束していません。そういったなかで、さまざまな問題が浮かび上がってきています。今の時点では時期尚早かもしれませんが、こういった問題から教訓を学び取り、将来に活かすのはわれわれの使命だと思います。
私が気になったのは、原発で3人の作業者が継続して被ばくしてしまったことです。このように危機的な状況にあってもまだ安全だと判断して、事態を軽視してしまうような思い込みは「正常性バイアス」と呼ばれています。
「正常性バイアス」は、誰にでも備わっている心理メカニズムです。たとえば、職場で火災警報機が鳴ったときに、誤報だと思いこんで避難をしないということはありませんか?たしかに、日常生活において、さまざまな現象に過剰反応するよりも、正常の範囲内であると考えて、心の平安を保つのは合理的な判断だと言えます。しかし、火災のような非常時、酸素欠乏作業のような危険作業など、リスクの高い場面では「正常性バイアス」が取り返しのつかない結果に結びついてしまいます。
では、こういった「正常性バイアス」を排除して、客観的な判断をするにはどうすればいいのでしょうか?それにはまず、人間にはこういった思い込みが存在することを知ることが大事です。次に、危険性重大性の認識、すなわち自分たちが非常に危険な状況にあるとの判断が必要です。これらのための安全教育と訓練が欠かせないでしょう。さらに、危険作業では、事前にリスクアセスメントを実施して、それぞれの作業者がリスクを認識することが必要になります。
「正常性バイアス」という思い込みを知って、危険に対して客観的な判断ができるようにこころがけましょう。