粉じんの管理濃度について
「こうちさんぽメールマガジン」2011.9月号より
労働衛生工学相談員 中西 淳一
作業環境測定の結果を評価する際の指標となる、粉じんの管理濃度は粉じん中の遊離けい酸含有率(Q)によって決定されます。そこで、今回は、粉じんの管理濃度のお話をします。
有害な化学物質、粉じんにつきましては、我が国や諸外国において、疫学調査や動物実験等健康影響に関する調査研究が行われています。そして、これらの調査研究で得られた新しい医学的な見地を踏まえ、粉じんのうちで、最も有害な成分である結晶性シリカ(遊離ケイ酸)の発がん性リスクを抑えることを目的として、管理濃度の改正が実施されてきました。
当初、粉じんの管理濃度は、平成17年3月31日までは次式-1.で示されていました。
E=2.9÷(0.22×Q+1) ・・・1.
E:管理濃度(mg/m3)
Q:遊離けい酸含有率(%)
次いで、平成16年10月1日の改正(平成17年4月1日から適用)では、式-1.に米国産業衛生専門家会議(ACGIH)の勧告値(Q=0%で3mg/m3、Q=100%で0.05mg/m3)を取り入れて次式-2.に改正されました。
E=3.0÷(0.59×Q+1) ・・・2.
E:管理濃度(mg/m3)
Q:遊離けい酸含有率(%)
Q=0%の場合 E=3.0÷(0.59×0+1)=3.0mg/m3
Q=100%の場合 E=3.0÷(0.59×100+1)=0.05mg/m3
そして、平成21年3月31日に改正され、平成21年7月1日から適用になっているのが次式-3.の式です。
E=3.0÷(1.19×Q+1) ・・・3.
E:管理濃度(mg/m3)
Q:遊離けい酸含有率(%)
Q=0%の場合 E=3.0÷(1.19×0+1)=3.0mg/m3
Q=100%の場合 E=3.0÷(1.19×100+1)=0.025mg/m3
今回の改正は、
- 石英、クリストバライト、トリジマイトの体内での挙動は大きく異なるものでないこと等から、これらの物質ごとではなく結晶性シリカ総体として管理濃度を定めた方が適当である。
- 日本産業衛生学会が許容濃度を吸入性結晶質シリカとして0.03mg/m3に改訂した。
- 米国産業衛生専門家会議(ACGIH)がばく露限界値を結晶性シリカとして0.025mg/m3に改訂した。
- ACGIHのレスピラブル粒子の定義(相対沈降径が4µmの時に透過率50%となる等の分粒特性)を吸入性粉じんの定義とすることが適当である。という以上の考え方から、現行管理濃度(式-2.)と同様に混合物に対するばく露限界についての一般的な考え方を踏まえ、ACGIHの「他に分類できない非水溶性又は難溶性粒子状物質(レスピラブル粒子)」の勧告値3mg/m3を代入し、又、ACGIHのばく露限界値「結晶性シリカとして0.025mg/m3」の提案理由は妥当であり、定量下限までの測定が可能であるので、管理濃度は、式-3.とすることが適当であるとの理由によるものです。以上、粉じんの管理濃度の変遷を見てきましたが、同じ遊離けい酸含有率であっても、改正のたびに管理濃度が厳しくなってきていることがわかります。
例えば、Q=10%の場合
式-1.では、E=2.9÷(0.22×10+1)=0.91mg/m3
式-2.では、E=3.0÷(0.59×10+1)=0.43mg/m3
式-3.では、E=3.0÷(1.19×10+1)=0.23mg/m3
さて、労働安全衛生法、粉じん障害防止規則では、労働者が様々な化学物質や粉じんを吸い込むことに起因する職業性疾病を防止するために、事業者に対し、定期的に作業環境における空気中の有害物濃度を測定することを規定していますが、それ以外にも、作業環境測定の結果に基づいて、設備の密閉化、局所排気装置の設置、作業方法の改善、必要に応じては呼吸用保護具を使用させること等を規定しています。これらの規定を遵守して、快適な職場環境の形成を目指していきましょう