行動変容に向けた健康教育
「こうちさんぽメールマガジン」2012.3月号より
保健指導担当相談員 小澤 若菜
就業者の健康教育の目的は、就労という環境から二つの側面を持っています。一つは、労働環境による健康障害を予防し回避するための衛生教育です。もう一つは、健やかな高齢化への準備段階として、加齢に伴う疾患のリスクを予防し、発症による負担を先送りするための一般健康教育です。どちらも、就業者が労働衛生に関する知識を持ち、それに基づいて自ら行動変容していくことが求められます。そこで、理論を活用した効果的な介入として、トランスセオレティカルモデル(変化のステージモデル)をご紹介したいと思います。このモデルを活用することで、就業者の健康行動に対する準備状態を理解し、準備状態に沿った健康教育を企画・実施することが出来ます。
まず、健康行動への準備状態は、行動することに価値があるかという「重要性」と、その行動を達成できるかという「自信」の程度により、以下のような5つの連続した変化のステージがあります。
(変化のステージの定義)
- 無関心期:6ヶ月以内に行動を変えるつもりはないという時期
- 関心期:6ヶ月以内に行動を変えるつもりがあるという時期
- 準備期:1ヶ月以内に行動を変えるつもりがあるという時期
- 実行期:過去6ヶ月以内に行動を変えたという時期
- 維持期:行動を変えて6ヶ月以上経過したという時期
就業者が、ステージを1つでも先に進むには、その人がどの時期にいるかを把握し、ステージに合わせた健康教育が必要になります。無関心期から関心期の人を対象とする場合は、主として個人の信念、価値観や感情といった認知に働きかけ、特に「重要性」を高める知識普及型健康教育が効果的とされています。一方、準備期から維持期の人を対象とする場合は、「自信」を高める実践型健康教育が効果的であり、行動に働きかけを強化することが求められます。それぞれの時期に沿った健康教育の内容として、以下のような視点を取り入れると行動変容がおこりやすいとされています。
(無関心期から関心期の人への健康教育)
- 健康行動に関する知識が増える
- 健康行動を実践する、しないことによる感情を表出できる
- 健康行動を実践する、しないことによる家族や友人、職場への影響を考える
- 健康行動を実践する、しないことによる自らへの恩恵を考える
- 健康行動を実践できる環境にあることに気づく
(準備期から維持期の人への健康教育)
- これまでの行動の代わりとなる条件の健康行動を考える
- 疲れていたり、ストレスを感じていたりするときに周囲からの支援がえられる
- 自らへの報酬(ご褒美)を考える
- 健康行動を実践する決意を周囲に表明する
- 健康行動を阻害する要因を取り除き、健康行動につながるきっかけを増やす
このように、就業者一人ひとりの労働衛生への準備状態を見極めながら支援する変化ステージモデルは、個別もしくは集団教育のどちらにも活用することができます。また、チラシやポスターによる情報提供の方法としても応用することができます。ぜひ、今後の健康教育に役立てていただければと思います。