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職場における災害時のこころのケアマニュアル

概要

本記事は、事業場の産業医、保健師等専門職の方々、事業主、衛生管理者、労務担当者及び同僚労働者の方々が、災害や事件等に遭遇した労働者及びご家族等にどのように接するべきか、企業がどのような対応をとるべきか等について、一般的な指針を示しております。
より専門的な対応が必要な場合等は、医療機関や相談機関等で対応をお願いします。

目次

  1. トラウマティックストレスとは
  2. ストレス反応と心の病気
  3. トラウマスティックストレスに起因した心身の反応
  4. 回復のための心構え(被災者へ)
  5. こんな場合は専門家に相談しましょう(被災者へ)
  6. 被災した人をケアするために(周りの人へ)
  7. トラウマティックストレス反応への事業場として対応
  8. こころのケアの危機介入システムづくり(その1)
  9. こころのケアの危機介入システムづくり(その2)
  10. 事業場外の医療機関・相談機関

トラウマティックストレスとは

トラウマティックストレスとは

ほとんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような例外的に著しく脅威的、破局的な性質を持ったストレスのことをトラウマ(心的外傷)と言います。
すなわち、強烈で通常の日常生活では体験し得ない凄まじい体験によって引き起こされた重い心の傷をトラウマと呼び、「トラウマティックストレス」とは、心的外傷を負うような精神的衝撃を引き起こす出来事を指します。トラウマティックな出来事とは、人が日常的には経験しない出来事であり、それらは著しく悲惨で、恐れや無力感のような強烈な反応を呼び起こします。
このようなトラウマティックな出来事はたいてい、本人や身近な誰かの身が危険に晒されることと関係しています。そして直接体験されるトラウマティックストレスを引き起こす出来事には、戦闘、テロ、強姦などの性的暴行、身体的攻撃と暴力、略奪、誘拐、監禁、拷問、大地震、火山の大爆発、死傷事件、交通事故及び労災事故などに直接本人が体験した場合、あるいは身内の人や他人への暴行や死傷事件を目撃した場合などがあげられます。このような体験をすると、様々な心身の不調がみられます。

心的外傷を引き起こす体験(出来事)の基準は下記のように定義されています。

  1. ICD-10(WHO世界保健機関)
    :ほとんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような例外的に著しく脅威的、破局的な性質を持ったストレスの多い出来事
  2. DCR-10(WHO世界保健機関)
    :並はずれた脅威や破局的な性質でストレスの強い出来事
  3. DSM-IV-TRの診断基準(米国精神医学会APA)
    • 実際にまたは危うく死ぬ、または重傷を負うような出来事を、一度または数度、あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を、その人が体験し、または直面した。
    • その人の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである。

ストレスとは

ストレスという言葉は「ストレス気味」「ストレスフル」「ストレスだ」というように日常生活ではかかせない用語になっており、日常茶飯事に用いられていますが、もともとは工学用語です。ある物体に外的負荷(外力)が作用すると、物体は、外力が作用した部位が歪んだ状態になり、このひずんだ状態がストレスです。そしてストレスの原因をストレッサーといい、寒冷、騒音などの物理化学的なストレッサーから、仕事、職場の人間関係などの心理社会的なストレッサーまで様々です。したがって、ストレス反応とはストレッサーによって引き起こされた生体の反応をさし、一般に心身に身体的な症状や不快な感情を引き起こす心理的反応が現れます。

ストレス反応と心の病気

ストレッサーに対する感受性は、性格や行動のパターンなどの個人的な特性やその時の心身の状態などによって強い影響を受けます。また事件後、孤立して相談する相手がいないなどの社会的・環境的な状況も大きく関係します。
事件直後は、びっくりして、頭が真っ白になったような感じになることがあります。例えば、「旅客機が突っ込んで来て高層ビルが崩落するなんてあり得ない、そんな馬鹿なことが…」というように、現実でないような感じがしたり、思い出しても悪夢か、映画でも見ているような気がするかもしれません。

急性ストレス反応

人はあまりにも大きなショックを受けると、その直後は出来事を受け止めようと思う反面、現実を否定したり、拒否したりするものです。特に親しい人の行方がわからないとか、ひょっとしたら亡くなったかもしれないと思うと、いてもたってもいられず、心臓がドキドキしたり、冷や汗をかいたりします。その場から逃げ出したくなったり、家族のことが心配でおろおろするかもしれません。なかには冷静で驚かないようにみえる人もいます。あるいは、妙に不自然にはしゃいでいる人もいるかもしれません。この反応は急激な精神的・身体的負荷がかかると起こりますが、およそ1ヶ月以内に消失します。

解離反応

悲惨な事件に遭遇したために強烈な精神的衝撃を受けた場合、現実をすぐには心の中に受け入れることができず、自分では気がつかないうちに嫌な感情や耐え難い苦しみを意識下に押し込んでしまい、その抑圧された心の葛藤が身体症状や精神症状を引き起こすことがあります。たとえばあまりにもショックが大きいために、身体には異常がないのに声がでなくなったり、立てなくなったりする場合や、赤ちゃん言葉で話し始めたり、意識がもうろうとすることがあります。

死別反応

不幸にも親しい人を失った場合、落ち込みや憂うつな気分が続き、怒りをどこにも向けられずに自分を責めたり、悲しみからなかなか抜け出せないことがあります。なかには後追いしようと考える人もいるかもしれません。このような気持ちが数ヶ月続くのはよくあることで、時間の経過とともに必ず回復してきます。

外傷後ストレス障害(PTSD)

災害や事件から1ヶ月以上経過しても神経の高ぶりがおさまらず、過覚醒の状態(些細な事にも過敏になり、刺激されやすい状態)が続き、災害や事件のなまなましい惨状の現場が頭に焼き付いていて自分の意思に反して思い出され、再体験されることがあります。このような状態をPTSDと言っています。
PTSDは強烈で凄まじい体験に起因した反応であるために、心的なストレスが弱い場合には出現しません。3ヶ月以内に約半数は完全に回復しますが、それ以上症状の続く場合もあります。

うつ病

身体的疲労、精神的疲労が続き、環境が変化することは、うつ病発症の引き金になります。特に責任感が強く、几帳面で、融通がきかない人は要注意です。
うつ病の症状は、睡眠障害をともなうことが多く、夜中に目がさめて眠れなかったり、早く目がさめたり、寝つきが悪くなったりします。そして憂うつな気分となり、興味、意欲、食欲がなくなり、何をしても楽しくなく、悲観的になり、自分を責め、生きていても仕方がないと思うようになります。
こうした症状があらわれた場合には1人で解決しようとせず、精神科医・心療内科医やカウンセラーなどの心の専門家に早めに相談する事が必要です。

トラウマスティックスウトレスに起因した心身の反応

恐ろしい災害や事件を経験した後で感情の揺り返しが来るのは、よくあることであり、ごく正常なことです。この感情の揺り返しはトラウマティックな災害や事件の直後に現れることもあり、数時間、数日、あるいは1ヶ月経過して現れることもあります。
元来、ストレスは危険な状況に対する警告の意味があり、生体は危険に対処しようとして反射的に交感神経が作動して血圧や脈拍を増したり、筋肉を緊張させて身構える体制になり、ストレッサーという外的負荷に対しての侵襲をやわらげようとします。このような緊張状態が消失せず持続するとストレスから心や身体の病気が引き起こされます。トラウマティックストレスによる心身の反応には次のような反応がみられます。

これらの症状の中には医師による診察が必要な場合もあります。疑わしい場合は受診が必要です。

感情・思考の変化

信じられない出来事が起こったために茫然としてしまい、何がどうなっているのか、何をどう考えればよいのか、自分自身が直面した現実を受け入れられないといった心の状態になったり、悲嘆、落ち込み(うつ)、感情が麻痺したようになり混乱することがあります。そして災害や事件を引き起こしたものに対しての怒り、いらいらが生じ、その災害や事件についての感情の波を抑えきれなくなって、突然、涙が出てきたり、自分自身を責めたり、自分に原因があるのではないかという非現実的感覚に襲われることもあり、災害や事件について考えることができない時期と、強く考えてしまう時期が繰り返します。

身体の変化

不安、恐怖のために眠れなくなったり、頭痛、腹痛、咽の渇き、寒気、吐き気、湿疹、けいれん、嘔吐、めまい、胸の痛み、高血圧、動悸、筋肉の震え、歯ぎしり、視力の低下、発汗、息苦しさなどが出現することがあります。

認知・感覚の変化

方向感覚を喪失したり、注意力が続かず集中することが困難になることがあります。過度の緊張状態や過覚醒、決断力の低下、身構え、悪夢、災害や事件のことが頻繁に頭をよぎることも多くみられます。

行動の変化

睡眠リズムの変化による睡眠障害、食欲不振や逆にたくさん食べ過ぎたり、薬やアルコールへの依存、なかなか行動がスムーズにできなくなったり、社会から引きこもるなどもみられます。

回復のための心構え(被災者へ)

  1. 恐ろしい災害や事件を経験した後で心身の変化や動揺が起こるのは自然な反応であることを理解しましょう。あなたが異常なのではなく、災害や事件そのものが異常な事態なのです。このような異常な事態に対処しようとして、正常な反応として様々な心身の変化が現れます。また災害や事件が終わって、しばらくしてから心身に強い反応が起きてくることもあります。
  2. 投げやりになったり、やけをおこして状況を悪化させないようにしてください。
  3. しばらくは一人にならずに、家族や仲間など安心できる人たちと過ごすようにしましょう。
  4. 食事・睡眠・休養など規則的な生活を心がけましょう。
  5. 一人で悩んだり、抱え込まずに、周囲の人や専門家に相談しましょう。
  6. ストレス反応からの回復は必ずしも直線的ではなく、行きつ戻りつしながら回復していくものであることを知っておいてください。
  7. 過度の飲酒は控えましょう。

こんな場合は専門家に相談しましょう(被災者へ)

次のようなことがあったら、専門家にためらわずに早めに相談しましょう。大切なことはひとりで思い悩まないことです。

身近な人にさえ打ち明けられない気持ちでも、専門家ならじっくりと聞いてくれます。精神科医・心療内科医やカウンセラーによる適切な治療・ケアが必要なこともあります。

  1. 被災後、1ヶ月以上過ぎても気持ちが落ち着かない、何もやる気がおこらない。仕事や勉強に身が入らない。
  2. 被災後、1ヶ月以上過ぎても事故の光景が何度も思い出されて恐怖や不安に襲われる。
  3. 周囲への関心が無くなった。無感動で、何も感じない、空虚な気持ちが続いている。
  4. 体の緊張感、脱力感や疲労感がいつまでも取れない。
  5. 頻繁にうなされたり、悪夢を見る。眠れない夜が続いている。
  6. まるで映画や夢の中にでもいるようで、現実感がわいてこない。
  7. ちょっとしたことでいらいらしたり、怒りっぽく周囲に八つ当たりしてしまう。
  8. 人間関係がこじれてしまい、自分ではどうにもならない。
  9. 落ち込みがひどく、死にたいと思う。
  10. 自分は弱い人間で、周囲に迷惑をかけていると感じる。
  11. 酒の飲み過ぎやタバコの吸い過ぎが目立ってきた。
  12. 自分の気持ちを聞いてもらいたいのに聞いてもらえる相手がいない。

子どもの場合の注意点をいくつかあげておきましょう。子どもは大人以上に敏感なところがありますが、なかなか言葉にすることが出来ません。そのために、言葉以上に体の訴えや行動に気をつけましょう。

  1. 学校や幼稚園に行きたがらず、家からも離れたがらない。
  2. 夜眠れない。夜中におびえて突然飛び起きる。おねしょをする。
  3. 親の気を引こうとしたり、しがみつく。赤ちゃん返りする。
  4. 今まで出来ていたことが出来なくなり親に甘える。
  5. すでに見られなくなっていた癖をまたしはじめる。
  6. 様々な体の症状を訴える。
  7. 一人になるのをいやがり、暗闇を怖がる。

被災した人をケアするために(周りの人へ)

  1. 何はともあれ休息をとってもらうことが第一です。焦らずに、きちんと休みを取れるように配慮しましょう。特に睡眠は大切です。普段よりもたくさん取った方がよいと言われています。
  2. 安全感・安心感を与えるように努めましょう。
  3. 被災者が安心して気持ちを言葉にすることができ、感情を吐露できるように、そっと包みこむような雰囲気づくりが大切です。
  4. 被災者ひとりひとりのニーズとペースに合わせて、気持ちをつかんでいきましょう。話を聴き、気持ちをそのままに受け止めましょう。決して急がせずにゆっくりとその人のペースで少しずつ気持ちを言葉にしてもらいましょう。根掘り葉掘り質問攻めにしてはいけません。
  5. 解決ではなく気持ちを共有できること、お互いに人として繋がっているという信頼感、連帯感を感じてもらうことが肝心です。また自然に湧いてきてしまう感情を抑えこまずに、泣いたり、笑ったり、怒ったりしてよいと伝えましょう。
  6. 今まで経験したこともない様々な症状や状態は、トラウマティックストレスへの反応として当然であり、自分が弱いわけでもおかしいのでもないことを知ってもらい、自分をいたずらに責め過ぎないように話しましょう。
  7. 回復を信じることが大切です。ケアを粘り強く一貫して行なうことによって、心の傷が少しずつ癒され、やがては惨事の痛ましい記憶や感情に支配されたり圧倒されることがなくなります。被災体験を心の中で処理する事ができるようになり自分を取り戻すことができます。

トラウマティックストレス反応への事業場としての対応

事業主の役割

  1. 事業主の理解と意思表明
    事業場で心のケアを行う際には、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」に沿って対策を行います。まず事業主がその意義・重要性を理解して、トップダウンで心のケア対策を推進することが大切です。「事業場として、今回の事件に対して心のケアに取り組む」といった意思表明をすることが有用です。
  2. 情報開示および共有
    事業場で、災害や事件に関連した情報の開示をしていただき、関連部署で情報の共有をすることが大切です。このことは無用な不安の生じることや、風評の流布を防ぐ上で役立ちます。
  3. 人的資源の整備・活用
    事業場内のメンタルヘルスに関わる人的資源を整備して、活用して下さい。たとえばラインの管理監督者、産業保健スタッフ等の役割を決めて、同時に各部署の連携がとれるようなシステムの構築を心がけてください。
  4. 危機管理チームの編成
    危機的状況における危機管理チーム編成を行うことが必要であり、産業医がその中心となるべきでしょう。また職場では衛生管理者が中心的役割を担うことが望まれます。
    危機管理チームにおいては、迅速で適切な対応ができるようにマニュアルの作成を行ってください。
  5. 外部資源の有効活用
    外部機関と契約を行って利用することが有効ですが、心のケアのすべてを外部機関に委託するのではなく、事業場内においてできることと、事業場外資源を利用して行うことを明確に分けてください。事業場内資源と事業場外資源が相互に補完しあうようなシステムを考えてください。

管理監督者の役割

  1. 業務に関する配慮
    後述するように、被災者である部下がたとえ一見元気にみえても、無理をしていてストレスが持続していることも予想されますので、一定期間休養をとってもらう方がいいでしょう。その上で復帰後には、本人と十分に相談しながら、徐々に業務を増やしていってください。
  2. 部下のケア
    部下の気分の変化、言動の変化、行動面の変化に気をつけてください。こうした変化に気づいた段階で、具体的な行動をとる前に、先ずは産業医、保健師等の専門職に相談してください。また本人が負担を感じないように、さりげない配慮が大切です。そして、適宜声をかけることが大切ですが、決して過度にならないようにしてください。様々な人から声をかけられると、そのことで負担に感じる人もありますので注意してください。

産業保健スタッフの役割

  1. 情報提供
    産業保健スタッフの重要な役割は、健康情報の発信源となることです。様々な方法・手段を使って、適宜情報提供を行ってください。危機的状況では、必ずしも正確ではない様々な情報が乱れ飛ぶことがしばしばありますので、責任ある部署からの情報提供が大切です。
  2. 健康に関する個人情報の一元管理の中枢
    産業保健スタッフが、健康に関する個人情報を一元的に管理する中枢的機能を果たすべきです。相談窓口が多様に存在する場合には、このことは特に重要です。同時に事業場内資源のコーディネーター機能を求められます。なお個人情報の保護には十分に留意してください。
  3. 外部医療機関・相談機関との窓口機能
    普段から行っていただいていることですが、外部医療機関・相談機関との連携の窓口機能を十分に果たしてください。この連携は、双方向的なものであり、業務上の配慮等に関して主治医から適宜具体的な指示を受けてください。
  4. 問題の適切な医学的評価と行動計画を立てること
    問題に関して、専門職として適切な医学的評価を行って、労働者本人、場合によっては家族と連携・相談しながら適切な行動計画を立ててください。

人事労務担当者の役割

  1. 産業保健スタッフの評価にもとづいた適切な人事管理
    産業保健スタッフの評価にもとづいて、管理監督者と相談しながら適切な人事管理を行ってください。
  2. 職場の保証・キャリアの保証
    労働者が最も不安に感じるのは、職場がどうなるか、自分がどうなるかです。災害や事件に関連したストレス以外の不安要因はなるべく取り除くことを心がけてください。職場・本人のキャリアの保証に関して言質を与えることが大切です。
  3. 人事に関連した相談窓口の開設
    2と関連しますが、人事に相談窓口を開設するのも一つの方法です。通常管理監督者を介しての相談となると考えられますが、直接相談できるような窓口は有用です。

こころのケアの危機介入システムづくり(その1)

非常事態が事業場内で起きたときに、非常事態をなるべく早く解決し、災害や事件以前の状態に環境を戻すことを危機介入といいます。悲惨な災害や事件の後には、被災者や関係者の心の状態を危機的状態から災害や事件以前の状態に戻すためのシステムづくりが必要です。この章では心のケアとしての危機介入のシステムづくりを説明します。

高リスク 中リスク 低リスク
被災者
亡くなった被災者の家族
被災者の家族
被災者の同僚
救援活動にあたった同僚
人事総務担当
従業員一般

心のケアは押し付けになっては効果がありません。まずは対象者のニーズの把握が必要です。以下は対象者別の心理的ショックのリスク分類の例です。リスクが高いほど、心のケアが必要です。惨事への関与度によって対象者のリスクは変化しますので注意してください。

右表のようにリスク分けをしたあとに、それぞれのグループへのケアの方法、タイミング等を決めます。リスク別の対応例を以下に記します。

低リスクの方には

惨事の影響をあまり受けなかった一般の労働者でも、テレビなどで見聞きしているニュースがストレスになるということがあります。予防として、災害や事件後にホットラインや掲示板によるトラウマティックストレスに関する情報提供や相談窓口が必要かもしれません。また、惨事の後の心理的影響などを説明したパンフレットを労働者に配布するのもいいでしょう。

中リスクの方には

亡くなった被災者のいた職場では、非常に大きなショックを受けているでしょう。遺族への具体的な支援や葬儀への参列などは、突然同僚を失ったショックを癒すうえでの第一歩です。事業場としても率先して支援してください。

部課内会議等で、災害や事件に関する気持ちや家族に対してしてあげたいことなどを話しあう時間を提供しましょう。

高リスクの方には

災害等により亡くなった被災者を直接確認した同僚は高リスクといえます。このような方には災害等の救援活動が一段落し、普段の仕事に戻る直前に労をねぎらい、普段のモードに戻る援助が必要です。この場合は救援チームとして関わった人たちを集めてグループとしてお互いの「気持ちの共有」をすることが効果的です。

こころのケアの危機介入システムづくり(その2)

以上の他に、必要に応じて下記のメニューを組
み合わせて行ってください。ケアは押し付けにならないように、慎重に計画的に行ってください。

ホットライン(電話相談窓口)の開設

  1. 社内ホットラインの設置

    事業場内に、災害や事件に関したショックや不安を気軽に相談できるようにホットラインをつくってください。ホットラインを開設する場合は、利用時間、利用時間外の取り扱いを決めて、労働者に明示する必要があります。電話やメールでの相談には限界がありますので、症状が重い場合、あるいは安定しているがカウンセリングが必要な場合は、相談予約をとって会うようにしましょう。

  2. 社外ホットラインの利用
    事業場外の医療機関・相談機関のリストを参考にして労働者にご案内ください。

被災者への働きかけ

被災者は日常では起こりえない危機を体験しています。通常業務に戻す前に、怪我等がない場合でも、家族とゆったりした時間をもち、以前に近い心身の状態に戻るために1~4週間休暇を与えた方がいいでしょう。

被災者には専門のカウンセラーを紹介し、本人の必要に応じて相談できる体制を整えてあげるといいでしょう。

家族に対する働きかけ

亡くなった被災者の家族への心のケアは、災害等の現場へ同行した会社のスタッフによる援助から始まります。現場の案内や病院との交渉の援助などを通して、これらのスタッフと家族は惨事後の体験を共有したはずです。それらのスタッフの一人が家族への窓口になることが可能であれば、家族も混乱が少なくてすむでしょう。

人にもよりますが、家族のショックは現場到着後が一番大きく、その後、葬儀や保険の手続きなどの作業で忙しくなり、しばらくは感覚的に麻痺した状態が続きます。これらすべての作業が終わり、周りが静かになった後で、ショックや悲しみはぶり返します。必要に応じてカウンセラーを紹介した方がいいでしょう。これから子供を一人で育てていくための子育てガイダンスや、就職への支援、経済的な相談にのってあげるなどのサポートが必要になります。

従業員一般への働きかけ

惨事の影響をあまり受けなかった一般の労働者でも新聞・テレビなどのニュースに接することがストレスになるということがあります。また出張の多い場合は家族が心配し不安になることも考えられます。

それらの不安やストレスに対して、ホットラインや掲示板によるトラウマティックストレスに関する情報提供や相談窓口の設置が効果的です。

また、惨事後の心理的影響などを説明したパンフレットを作成して労働者に配布するのもいいでしょう。

管理監督者・人事労務担当者に対する教育

災害や事件などの惨事の後ではショックや不安が高まり、生産性が低下します。このような時は、小さなミスなどを指摘するよりも、まずはショックを和らげ、従業員の心を癒すことが大切です。管理監督者・人事労務担当者からの労働者へのメッセージの中にも心のショックを一緒に癒すことの大切さを盛り込むなど、管理監督者が理解している態度を見せることが従業員のモラルをもとに戻すために重要です。人間には自然治癒力があります。数週間すると自然に従業員は心身共に災害や事件以前の状態に戻り、集中力も高まり、会社への貢献度と生産性を取り戻すことができます。中には、たとえば災害や事件への恐怖が一時的に高まり、出張に抵抗を示す社員もいるかもしれません。その場合は強制せず、出張以外の手段(電話会議など)を話し合ったり、出張時期をずらすなど柔軟性のある対応をしてあげましょう。

どうしても恐怖心がとれない場合は、精神科医・心療内科医への相談を勧めましょう。

事業場外の医療機関・相談機関との連携

薬物やカウンセリングなどによる治癒の必要な労働者や家族には、巻末にリストがある労災病院等の事業場外の医療機関・相談機関を紹介してください。このような専門的治療は医師等との相性が大切ですので、本人のニーズに合った治療を行える2~3か所の選択肢から選ぶといいでしょう。
災害時の危機介入には複雑な分析・評価と計画が必要です。この章であげた危機介入をするには災害時の心のケア(Critical IncidenceStress Management:CISM)の専門家のアドバイスが役立ちます。都道府県の産業保健推進センターにお問い合わせください。
参考に事業場外支援システムを示しました(下図)。

災害等に遭遇した労働者の心のケアに対する支援概念図

災害等に遭遇した労働者の心のケアに対する支援概念図

事業場外の医療機関・相談機関

終わりに

本記事は、平成13年度に作成した「米国テロに伴う帰国労働者等の心のケア対応ガイド」を元にして、様々な災害等に遭遇した労働者に対する職場における心のケア対応の一般的な指針とするべく、高田勗北里大学名誉教授、島悟東京経済大学教授のご指導並びに厚生労働省労働衛生課のご協力を得て、当機構において作成したものです。
当機構本部ホームページよりPDF版の冊子をダウンロードできます。

以上

ご相談・ご要望を受け付けています。

ご利用時間:午前8時30分~午後5時15分(土・日曜日・祝祭日、年末年始除く)

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