野山のダニに気をつけよう
産業保健情報誌「よさこい」2004.9月号より
高知県衛生研究所
野山のダニに気を付けて下さい!野山、草地、河川敷などにはマダニやツツガムシなどのダニが生息しています。 極まれですが、この虫に刺された人が感染し、発熱、発疹などの症状を示します。この病気はダニの持つ病原リケッチアによっておきますのでリケッチア症と呼ばれています。リケッチア症で、特に高知県で多いのが日本紅斑熱とツツガムシ病です。これらの病気は死に至ることも有りますので気を付けましょう。 なお、診断できれば良く効く抗生物質も有りますし、病原体を持っていないダニがほとんどですので、刺されたからといって過剰な心配は必要有りません。
マダニ類
マダニは卵からかえったばかりの幼ダニの時は脚は6本で、草の上などで、炭酸ガス、振動、音などを頼りにして通りかかった動物に寄生し、3~4日で飽血(満腹)して動物から落下、地面で1回目の脱皮をします。1回脱皮すると若ダニとなり、脚は8本になります。幼ダニと同じ要領で動物に寄生、飽血後2回目の脱皮をし、成ダニ(2~10mm)に成長します。成ダニも寄生動物を探し、約1~数週間かけて飽血します。飽血した成ダニはアズキ粒くらいの大きさになる。メスは約2,000~6,000個、時には10,000個の卵を産みます。高知県衛生研究所でもマダニの生息調査をしましたが、日本紅斑熱の患者が多く発生している室戸市においてはマダニの種類、数共に多く生息していることが明らかになっています。また、室戸市に比べると少ないですが、県下全域にマダニが生息していることも明らかになっています。
ツツガムシ類
ツツガムシは一世代に一度だけ、卵からかえった後の幼虫期に動物に寄生して病原リケッチアを媒介します。わが国で病原リケッチアを媒介するのはアカツツガムシ(Leptotrombidium akamushi)、タテツツガムシ(L..scutellare)、フトゲツツガムシ(L..palidam)の3種であり、それぞれのダニの0.1~3%がリケッチアを持つ有毒ダニであると言われています。高知県衛生研究所で調査した結果、近年、高知県で発生しているツツガムシ病はタテツツガムシによることが明らかになっています。寄生し吸着する時間は1~2日で、ダニから動物へのリケッチアの移行にはおよそ6時間が必要です。リケッチアはダニからダニへ経卵感染により受け継がれています。また、若虫、成虫期は土壌中で昆虫の卵などを摂食して生活をします。
ダニやダニに関する病気のことで心配事、疑問点などが有りましたら最寄りの保健所あるいは衛生研究所にご相談下さい。
ダニや日本紅斑熱、ツツガムシ病に関する相談窓口(TEL)
- 東部保健所:0887-34-3175
- 中央東保健所:0887-53-3172
- 高知市保健所:088-822-0577
- 中央西保健所:0889-22-1247
- 高幡保健所:0889-42-1875
- 幡多保健所:0880-34-3175
- 衛生研究所:088-821-3960
高知県におけるダニやダニに関する病気の情報入手先
日本紅斑熱、ツツガムシ病の発生状況
全国的には日本紅斑熱は高知、徳島、愛媛を含む17府県から、ツツガムシ病は北海道を除く全ての都府県から発生しています。高知県における日本紅斑熱の発生は全国一であり、1984年以降2003年までに7市町村から128例発生、うち、115例(90%)は室戸市から発生しています。ツツガムシ病は同期間で6町村から28例発生、うち、25例(89%)は嶺北地域(大豊町、土佐町、本山町)から発生しています。どちらの病気も野山、河川敷等で発生していますが、日本紅斑熱は沿岸部、ツツガムシ病は山間部の地域から発生しています。患者の月別発生状況を見ると日本紅斑熱は4月から11月の間に発生していて、特に5月から10月の間が多くなっています。これはマダニの活動期、繁殖期、また、ヒトが野山等に多く立ち入る時期と関係があるものと思われます。ツツガムシ病は近年では10月から12月の秋・冬に全て発生しています。これは高知県の感染がタテツツガムシによるものであることを示していることと思われます。
日本紅斑熱、ツツガムシ病の症状と予防について
日本紅斑熱の症状
マダニに刺されて2から8日後に頭痛や悪寒戦りつなどを伴って急激に高熱が出ます。高熱出現にやや遅れて、全身に米粒大~小豆大の紅斑(発疹)が多数現れます。この間痛みやかゆみを感じないのが特徴です。また、マダニの刺し口を見つけることもこの病気の診断のため重要です。
ツツガムシ病の症状
ツツガムシに刺されてから7から10日ほどして日本紅斑熱と同様の症状が出ます。発熱と同時または2から3日後に顔面、体幹、全身に不規則な紅斑・丘疹性の発疹が現れます。ツツガムシの刺し口は経約10mm(日本紅斑熱より大きい)の黒褐色のかさぶたに被われた潰瘍として確認されます。刺し口に近い所属リンパ節、あるいは全身のリンパ節が腫れます。
日本紅斑熱、ツツガムシ病の予防
予防で最も重要なことはマダニ、ツツガムシに刺されないようにすることです。具体的にはこのようなダニが生息する山野、河川敷等にはなるべく立ち入らないことです。やむおえず立ち入る場合は長袖の上着、長ズボン、長靴、手袋などを着用し、素肌の露出を避け、立ち入った後には必ず入浴し、付着しているかも知れないダニを洗い落として下さい。
マダニ、ツツガムシに刺されたら
ダニに刺されている(付着している)ことに気が付いたら自分で取らずに皮膚科を受診するようにして下さい。(下手につぶすと病原体が流入して感染の可能性を増してしまいます。)刺された記憶が無くても、野山等に出入りした後、数日から数週間後に発熱、紅斑(発疹)を認めた場合は皮膚科に受診して下さい。
日本紅斑熱、ツツガムシ病の治療
治療は、早期に本症を疑い、適切な抗菌薬を投与することが極めて重要です。テトラサイクリン系の抗生物質の投与で治療すると軽症で済む例が多いのですが、放置すると、神経症状、心症状、関節炎等をきたし、重症になる場合が有りますので、早期治療が重要です。
以上