自殺予防対策とメンタルヘルス
産業保健情報誌「よさこい」2006.1月号より
高知産業保健推進センター相談員
いとうクリニック院長 伊藤 高
5年連続年間自殺者数が3万人を超えたという報道がなされたのが、今年の7月。交通事故死者が8千人台と減った中、自殺者数は平成9年以降一気に増え、現在に至っています。振り返って、高知県の現状を見ると、平成14年以降自殺者数は全国レベルを超えて増え続け(図1)、昨年では秋田、青森、岩手に次いで第4位という残念な状況となってしまいました(図2)。
自殺される方の8割にうつ状態やうつ病があるといわれています。これらの多くは治療可能な状況で、もし専門的な治療を受けることができていたならば、自殺が未然に防げたかも知れません。しかし、過労自殺で労災認定を受けたケースの約7割が医療機関にかからぬまま、死を選んでしまっているのが現状なのです。では、身近にできる自殺予防対策について、考えてみましょう。
うつ病は男女比が1対2、一方自殺では7対3。この差はどこから来るのでしょうか?何か困ったこと、悩み事があったとき、女性は気軽に相談できる相手をお持ちのことが多いようです。一方、世の男性諸君はいかがでしょう、そう言うときに相談できる相手をお持ちでしょうか?自殺の研究で有名な防衛医大の高橋教授は、学生時代、特に高校時代の同級生に相談してみては?と言われています。
なぜか?まず同じ年齢ですので、同じような状況や境遇を経験していることや利害関係がない等。悩み事が出てくる前から、相談相手を決めておく方が良いとも言われていました。ぜひ、男性の皆さん悩みを1人で抱え込まず、誰かに相談してみてください。人に話すだけで、少しでも楽になれますから。
では、逆に相談を受けたとき、どんなことに気をつけたらいいでしょうか?彼、彼女はあなたを相談相手に選んだのですから、誰にでも相談できる状況や内容ではないことを理解してあげましょう。次に、批判や自分の意見を言わずに、きちんと耳を傾けてお話を聴いてあげましょう。何かアドバイスをしなくては?と話を聴きつつ、考える必要はありません。ただ話を聴いてもらって、自分の苦しさ、辛さを理解して、受け止めてもらえただけで、人は楽になれるものですから。どんな適切なアドバイスをすることよりも、聞き上手に徹することの方が大切なのです。
最後に、職場では過重労働問題への対策を。過重労働とうつ病、自殺との関係はこれまでも大きな問題になってきました。過重労働対策については、よさこい9月号に坪崎先生が書かれていますのでご参照下さい。また、かかりつけ医や産業医の方々にも、これらの関係に注目していただくことが大切です。
うつ病の患者さんの多くはまず、身体的な訴えをされることが多いと言われます。その段階できちんとスクリーニングできれば、早期発見につながると思われます。
以上