事務所の暖房管理について
産業保健情報誌「よさこい」2006.1月号より
高知産業保健推進センター基幹相談員
門田労働衛生コンサルタント事務所所長
門田 義彦
表1 事務所衛生基準規則
「空気調和設備の供給空気の基準」
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ご存じのとおり環境省では夏のクールビズ(CoolBiz)に引き続いてウォームビズ(WarmBiz)を提唱しています。ウォームビズとは、「暖房20℃で”働きやすく暖かく格好良い”ビジネススタイル」のことで、目的は暖房の温度を20℃とすることによって必要なエネルギー量を削減し二酸化炭素の発生を抑制して地球温暖化を防止することです。また、厚生労働省の「事務所衛生基準規則」では空気調和設備を設けている部屋の基準を表1のとおり定めています。
事務所の暖房に関してはストレスを感じている人が多いようです。ある調査では以下のようなことが問題としてあげられています。
- 室温があわない(男女差、年齢差、営業職と事務職など職種などによって体感温度が異なる)
- 温風が直接体にあたる
- 空気が乾燥する
- 室内の温度にムラがある(とくに足もとが寒い)
表2 ウォームビズ導入のメリットとデメリット
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ウォームビズなど社内の暖房温度設定の導入にあたっては、まず社内のコンセンサスを得ることが必要です。暖房温度の設定を会社からの押しつけと感じるようでは、新たなストレスの原因となります。導入について社員同士で話し合うようにしてください。この話し合いに先がけてウォームビズのメリットとデメリットをよく周知することが重要です。事前のアンケート調査などが有効でしょう。職場での話し合いの際には男女間、職制間の区別なく意見を聞く必要があります。そうした上で自分たちでルールを作るようにしましょう。人は他人から言われたことでなく自分で考えて行動することにやりがいを感じます。押しつけられたルールでは、せっかくのウォームビズも長続きしません。さらに、ルール施行後も、衛生管理者などが相談を受ける窓口となり、必要に応じてルールを改変するなど柔軟な対応が求められます。
事務室暖房時の室温管理では、温度だけでなく湿度もあわせて管理するようにしてください。それでなくても冬の空気は乾燥していますが、暖房することによってさらに湿度が低くなります。湿度が極端に低いと、肌が乾燥し、のどや気管を痛めたり、さらにインフルエンザウィルスが増殖しやすくなります。また体感温度は温度と湿度に密接な関係があります。同じ温度であっても湿度が低いと寒く感じてしまいます。一方で湿度が高くなりすぎると、夜間に結露が生じてダニやカビの発生原因となります。湿度は40%~60%を保つとよいでしょう。こういった湿度管理には観葉植物の配置、換気の励行や加湿器の使用が有効です。
温湿度の管理には測定が不可欠です。温湿度を正確に測定するには「アスマン通風温湿計」が使われます。構造は写真に示すとおり、2本の金属製通風筒の内部に乾球温度計と球部にガーゼを巻いた湿球温度計とを別々に挿入して、それぞれの球部の位置で適切な気流が与えられるよう、上部のファンを回転させるようになっています。測定時には精製水(蒸留水またはイオン交換水)を付属するスポイトで湿球のガーゼを湿らせて、その後ファンを稼働させ2本ある温度計の温度をそれぞれ読み取ります。読み取った乾球温度から室温を、乾球温度と湿球温度の差と付表から湿度を知ることができます。
なお、概略の温湿度を知るには、手軽な壁掛け式の温湿度計やデジタル式の温湿度計などが使用できます。暖房時の温湿度管理にはこれらを室内に設置するようにしてください。
室内の温度にムラがある場合には、測定位置を変えるか、複数の温湿度計で測定して状況を把握するようにしてください。暖房時には、天井付近に暖かい空気が停滞し、床付近が寒いままということがよくあります。同じ温度でも足もとが冷たいと寒いと感じます。このように室内の温度のムラがある場合には、扇風機やサーキュレーター(空気循環器)さらにファン付の加湿器などによって室内の温度ムラを解消することができます。
以上のとおり、暖房時には室温を管理するために、まず室内の温度と湿度の測定をしましょう。暖房によるストレスがあっては仕事もはかどりません。適切な室温管理を工夫して、地球環境に配慮しつつ快適な職場環境を作るようにしてください。
以上