お知らせ

石綿による疾病の認定基準について

産業保健情報誌「産業保健こうち」2008.9月号より

産業医学担当相談員 町田 健一

近年、アスベストによる健康問題が勤労者のみならず地域住民にも波及するなど、社会的に大きな問題となっています。アスベストは、石綿(せきめん、いしわた)と呼ばれる天然の鉱物繊維で、断熱性・耐火性・防音性・耐腐食性に優れており、建築用製剤として広く用いられてきましたが、軽い綿状の性質でその繊維が極めて細いため、目に見えないサイズで容易に飛散する恐れがあります。アスベスト製品で、石綿繊維らしきものが直径0.5mm、長さ1mm前後の細かい繊維として目に見える状態がありますが、これは0.1~1µの何千本もの繊維が「撚り合わさって」1本に見えているにすぎません。

アスベストの吸入によって生じる疾患には、肺病変(アスベスト肺「石綿肺」と肺がん)及び胸膜疾患があります。胸膜疾患には、悪性腫瘍である中皮腫と非悪性疾患である良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺及び胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)があります。

アスベスト肺「石綿肺」は、肺が線維化してしまう肺線維症という病気のひとつです。肺線維症には多くの原因がありますが、石綿の暴露によって起こるものを「石綿肺」と呼んで区別しています。職業暴露が10年以上の労働者に起こるといわれ、潜伏期間は15~20年といわれています。

石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、細胞内に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされており、また、喫煙と深い関係があることも知られています。暴露から肺がんの発生までに15~40年の潜伏期間があり、アスベストの暴露量が多いほど肺がんの発生率が多いといわれています。

胸膜にできる悪性腫瘍を悪性胸膜中皮腫といい、希な疾患で肺がんの1%以下の頻度といわれています。腹膜・心膜・精巣鞘膜にも発生します。胸膜に沿って拡がり、肺の外側を包むように増殖します。症状としては、胸の痛みや背部痛が多く、時には呼吸困難・咳・体重減少・発熱を伴い、胸水が貯まることが多く、その量が多くなると呼吸困難をきたします。胸部レントゲンや胸部CTで肺の外側に沿って拡がる異常な影や多数のしこりとして発見される場合が多く、診断のために体の外から針を刺して胸水を抜いたり、特殊な針で胸膜を採取したり、胸腔鏡という内視鏡を胸壁から挿入して目で確認しながら病変部を採取して病理学的検査を行います。

原因不明の胸腹水患者では、石綿暴露に関する綿密な聴取が必要です。職業上の暴露だけでなく、家族の作業衣の洗濯などによる家庭内暴露や、小児期を含めた環境暴露などもあります。最初の石綿暴露から発症までを潜伏期間といい、暴露量が多いほど潜伏期間は短くなります。中皮腫の潜伏期間は肺がんより更に長く(平均40年)、年数を経るほど発生頻度が高くなるといわれています。

非悪性疾患のびまん性胸膜肥厚は、透明な薄い胸膜に何らかの病変が起こり、病理的にびまん性胸膜線維症と呼ばれる細胞成分の少ない編み物様の繊維組織を主体とする胸膜の肥厚で、壁側胸膜と癒着しています。病変の拡がりは片肺の場合は胸部写真で1/2以上、両肺の場合は同様に1/4以上と規定されています。

壁側胸膜に生じる不規則な白板状の肥厚を胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)と呼びます。石綿曝露との関係が濃厚であり、日本では曝露の指標とされています。1mm以下の薄く小範囲なものから、厚さ10mm以上に成長し、またプラーク同士が融合し、一側壁側胸膜のほぼ全体に及ぶこともあります。繊維性に増殖した表面は中皮細胞に覆われて、臓側胸膜との癒着はみられません。

石綿小体(アスベスト小体)は、石綿繊維を芯にして蛋白質や鉄が結合した、通常は直径2~5µの亜鈴状の形態を示したもので、肺切片の病理組織標本で認められます。胸膜プラークと同様、過去のアスベスト曝露の重要な指標です。

中皮腫の労災保険法に基づく労災保険給付の決定件数は、厚生労働省労働基準局資料では平成11年度25件、12年度37件、13年度34件、15年度85件、16年度128件と次第に増加、17年度502件、18年度1,000件と激増しており、石綿による原発性肺がんの労災保険給付決定件数も、平成14年度22件、15年度38件、16年度58件、17年度213件、18年度783件とここ数年で急増傾向が示されています。

石綿による疾病の認定基準のポイント

中皮腫または肺がんは、以下の1.または2.に該当する場合には、労災補償を受けることができます。

  1. 明らかな「石綿肺」所見が認められ、かつ、石綿にさらされる作業に従事した(期間の長短は問いません)と認められる場合
  2. 胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)または石綿小体等の存在が認められ、かつ、石綿にさらされる作業に、
  • 中皮腫の場合は概ね1年以上
  • 原発性肺がんの場合は概ね10年以上従事したと認められる場合

労災対象外の場合には、石綿救済新法による救済があります。工場周辺の住民など、労災保険の救済対象とならない場合には、中皮腫や肺がんなどの指定疾患に罹った旨の認定を受けた患者や遺族に対して、石綿健康被害救済基金から救済金や医療費が給付されます。お近くの労働基準監督署にご相談ください。

ご相談・ご要望を受け付けています。

ご利用時間:午前8時30分~午後5時15分(土・日曜日・祝祭日、年末年始除く)

PAGE TOP