日本人と過労死
「こうちさんぽメールマガジン」2007.8月号より
産業医学担当相談員 坪崎 英治
五月半ばの日経新聞の報道によると、厚生労働省の職業病認定対策室が発表した昨年度の過労死と過労自殺の認定死者数は依然として多くも147人と66人であり、特に過労自殺の方は過去最高であるとしています。死亡には至らないが過労が起因とされた健康障害で労災認定された数は938人であり、これまた過去最高ということでした。
過労とはなにを指すか、現在では過重労働という言葉を用いますが、仕事の質や内容よりも一ヶ月に80時間以上残業するような長時間労働を意味するようになりました。
毎日の時間外労働が1.5時間以上越える状態が長時間続くと血圧上昇が起こり、その結果脳および心臓に障害が生じ、最悪の場合死に至る事もあるという医学的調査研究論文が多数発表されていることが裏づけとなっています。
過労死の多い職業は運転職、プログラマーや医師などの専門職、警備員、管理職、事務職などと言われています。
日本人と過労死は以前から縁が深く、この過労死という言葉は勿論日本語ですが、欧米ではそれに適した訳語が無いこともあって、そのまま世界共通語として通用しているほどです。昔から伝統的に長時間労働が風習としてあり、また日本人は働くことを生活の中心に据えてきており、勤労は美徳であり、二宮尊徳のような働き者は広く社会の尊敬を集めていました。こういった社会風潮が過労死の多発に繋がっているのでしょう。
平成18年4月に国は労働安全衛生法を改正し、過重労働による健康障害防止対策を発足させました。長時間労働の防止と、産業医による面接や診察による健康障害の早期発見と早期対策を主な柱にしています。しかし昨年度の実績では実効あるものとはまだ証明されていないようです。
また、過労自殺が最多でありましたが、「労働環境は依然厳しく、求められる仕事量は増えているのに職場のサポート力が不十分で社員が過労自殺に追い込まれている」と国は分析しています。日本は自殺大国で、この八年間連続して毎年三万人を大分超える人達が亡くなっています。世界の中ではロシアやハンガリーと並んで多発国で米英と比べると2~4倍もの差があります。国内でみると東北地方が多発県で、関西地方とは2倍ぐらいの差があります。何か共通点はあるのでしょうか。
自殺者の多くは高齢者、無職の人々ですが、30%ぐらいは若壮年の働き盛りの人々が含まれています。原因の分析では健康問題、経済生活問題、家庭問題などが多いようですが、自殺者の多くには鬱病が介在していると言われています。
国は平成18年6月には自殺対策基本法を成立させて、メンタルヘルス対策の充実や雇用対策などを図っていますが、これも急な効果はやはり難しいものがあるようです。
少子高齢化社会の到来とともに、働く人の数を確保するという名分のもとに、対策は急ピッチで出されていますが、私達も国だけに任せるのではなく、自分たちの身近な問題として意識を高め、周りに気配りをし、相互に助け合う社会的支援をしっかりやっていきませんか。