お知らせ

職場の労働衛生問題について

「こうちさんぽメールマガジン」2008.3月号より

労働衛生関係法令担当相談員 樋口 悠紀夫

昨年の10月から放送されているNHKの朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」は、福井県小浜市出身のヒロインが、大阪に出て、落語の徒然亭一門に入門し、女性落語家を目指して奮斗するという物語で、高視聴率を上げているようです。
徒然と言えば、兼好法師の「徒然草」がすぐに浮かんで参ります。
「つれづれなるままに、日暮らし硯に向かいて・・・・・」の一節で始まるこの随筆は、清少納言の「枕草子」などと共に、日本三大随筆の一つに数えられています。
「つれづれ」の意味を国語辞典で引いてみますと「つくづくともの思いにしずむようす」とあります。
そこで、筆者も徒然草にあやかって、職場の労働衛生問題について、つれづれなるままに、書いてみたいと思います。

徒然記 その一

近年、仕事や職場生活に関する強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者が増加しており、脳・心臓疾患や精神障害による労災認定者数も、年々、増加している状況にあります。
筆者も労働基準行政に在職中、これらの案件の処理に多数当たってきましたが、その中の一つに印象に残っている事案がありました。
それは、事務系の30才代半ばの男性社員が勤務先のビルの屋上から飛び降り自殺し、後には→妻と3才・1才の幼子が残され、遺族から労災補償の申請が行われた事案です。
担当者が職場の上司・同僚、取引先、家族等から、被申請労働者の仕事量や進捗状況、抱えていた問題点、労働時間、身心の状況等を詳細に聴取した聴取書やタイムカード、日報等の資料をまとめて決裁に上げてきます。
これらの文書や資料につぶさに眼を通している中で、一つの大事な仕事を任せられ、単独で長時間の労働に従事しながら、取引先との間で生じる数々の難問に一人で対処し、期日までに業務を完遂しなければと苦しみつつ懸名に仕事に取り組んでいる労働者の姿が目に浮かんできて、思わず涙がこぼれてしまいました。
飛び降りたビルの中にある事務所の机の中には「○○さん、ごめん」と妻の名を印したメモが残されていました。
この事案は、業務上と認定されましたが、尊い命は家族の元へ戻ってきません。
このような悲しい出来事を繰り返さないためには、労務管理をより適正に行うことや社員に対するサポート体制の確立、メンタル対策の充実等が大切だと、つくづく感じました。
高知産業保健推進センターでは、各分野の専門家がメンタルヘルス対策をはじめ、職場諸々の労働衛生問題等について相談に対応していますので、是非、活用していただきたいと願っています。

徒然記 その二

平成20年の新春早々から、雪崩に巻き込まれた、稜線から滑落した、道に迷ったなど、山での遭難事故が例年のように多発していることは誠に残念です。
原因はそれぞれあるようですが、これらの事故をなくすためには、計画(Plan)、実行(Do)、点検(Check)の一連の過程をしっかりと実行することが大切だと思われます。
計画の段階では、登山ルートや天候の確認、装備や食糧の準備を入念に行い、そして、実行の段階では計画に基づき、これに添って正確に実行すると共に、天候や現地の状況に併せて柔軟に対応しなければなりません。
最後に、登山終了後は、必ず計画やその実行面で問題がなかったか、改善すべき点はなかったか等について点検し、次回の計画にこれを反映していくことが大切となります。
このことは、企業の労働衛生管理についても当てはまることだと思います。
事業所全体やそれぞれの部署毎に年間や各月の計画を立て、各役職者や第一線で働く方々が、これを的確に実行し、事後に点検・評価して、次期の計画を作成していくというサイクルを確立することが非常に重要なことと考えられます。
筆者は健康の維持、管理を兼ねて登山を趣味としていますが、平成18年は数えてみますと、年間に70回の登山を行い、ニュージーランド・カナダ・ネパールの山々も歩いてきました。
幸いにも無事故で一年を終えることができました。
今後も、計画→実行→点検のサイクルを大切にして、安全な登山をできる限り続け、健康を維持していきたいと思っているところです。

徒然記 その三

先日、友人二人と私達夫婦の四人でイタリアの旅に出掛けてきました。
観光コースの中に水の都ベネチアが入っており、丁度、訪問中にあの有名なベネチアの仮面カーニバルが行われているということでした。
それなら、ただカーニバルを眺めるだけではつまらない、是非、参加しなくっちゃと、「おかめ」と「ひょっとこ」のお面を買い込んで出発しました。
そして、キャサリン・ヘップバーンの映画「旅情」で有名なサンマルコ広場にお面を付けて四人で繰り出しました。
広場には、豪華なドレス等に身を包んだ紳士・淑女や中世の貴族の衣装で着飾った男女などが様々な仮面を付けて闊歩していました。
その中で、私達の「おかめ」「ひょっとこ」姿は異質に見えたのか、たちまちカーニバルの参加者や世界各国から来た観光客の注目の的となりました。
このため、仮面の紳士、淑女達と腕を組んで歩いたり、観光客の求めに応じて写真のモデルになったりと大忙がしでした。
そのうちに、不思議なことに、素顔も見えず言葉も通じない外国の人達との間に連帯感やコミュニケーションのようなものが芽生え、心地よく楽しいひと時を過ごすことができました。
ところで、今、我が国の職場では成果主義の導入、非正規雇用労働者の増加、OA化の進展等により、働く人々の間の連帯感や信頼感が薄れてきています。
このことにより、様々の精神疾患や健康の悪化等が顕著になってきているようです。
したがって、今こそ、これらの原因を見直し、それぞれの職場において働く人達が生き生きと健康に働けるよう、労使が協力して努力していくことが必要ではないでしょうか。

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