人は何故病気になるのでしょうか
「こうちさんぽメールマガジン」2009.4月号より
産業医学担当相談員 坪崎 英治
人は何故病気になるのか,この疑問にたいしては古来から様ざまな答えが様ざまな人々から出ているのはご承知のとおりです。感染症を別として、これらの中で、最近やや定説として認知されはじめているのが遺伝子による運命予定と、加齢あるいはそれまでの本人の良くない生活習慣の組み合わせが発病を惹き起こすという説です。
最近読みました「運命の暗号」という遺伝子学者の村上和雄さんの著書の内容の一部を御紹介してみましよう。
それによりますと、日本民族は糖尿病になり易い遺伝的体質を生まれながらに持っている人が、世界の中でも特別多いのだそうです。私たちは、農耕民族ですから現代はともかく、過去には天候異変や病虫害による不作、ひいては飢饉と無縁でおれません。近々過去一千年の日本の歴史をひもといても約三十回もの餓死者が出るほどの重大な飢饉があったようです。
私たちはその飢饉に耐えて生き残った人々の子孫であり、調べてみると我々の体細胞内にある遺伝子の中にいわゆる倹約遺伝子というものを持っている人が特別多いのだそうです。
この倹約遺伝子を持っている人は、そうでない人と比べると基礎代謝率が約10%低いのだそうです。一日量にして200キロカロリ-も節約出来る、車で言えば,ガソリンをあまり喰わない省エネタイプのからだなのです。意識的に節食あるいは肉体運動を増やして余剰カロリ-の蓄積を防がないと肥満と糖尿病の発病が増えるのだそうです。
これに対して、狩猟牧畜民族は中世までの三圃農業の改善により、冬季における家畜の飼料が確保されたことから重大かつ長期にわたる飢饉に遭遇することが少なく、倹約遺伝子の保持者も多くないそうです。
このように飢餓という人類の生存の危機がきっかけとなって獲得されたインスリン抵抗性の増大による血糖維持能の向上があり、この遺伝子の進化が現代に至って糖尿病という病気に繋がるような例は他にも幾つかあります。
これも丸山征郎さんの「背広を着た縄文人」という著書に紹介されているのですが、病原菌の感染に対し有効な抗生物質など持たない古代人は免疫力を増大させ、異物排除能を向上させました。この獲得された遺伝子上の進歩がアレルギ-、アトピー疾患、自己免疫疾患を引き起こすのです。現在多くみられる花粉症もこの異物排除能が行き過ぎて病的症状が發生しているのです。
この他外傷など怪我による出血死に対して、獲得された凝固能の増大と止血機能の向上が、動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞と無縁とは言えないのです。
ほかにも食塩の不足がNa貯留能と維持能を来たし高血圧につながり、栄養不良が高栄養源である脂肪への味覚嗜好と吸収能を高め、肥満、高脂血症、動脈硬化に関連しているのです。
私達の身体は約60兆個の細胞で構成されていますが、一定期間のサイクルで分裂しており、特に骨髄と胃腸壁の細胞は常に分裂しているのです。それぞれの細胞内の遺伝子に書き込まれたプログラムにより細胞増殖が増えたり、抑制されたりするわけですが、加齢や発癌物質摂取の影響で遺伝子に異常が生じると、誤った指令が出て細胞は無制限に増殖を続けることがあり、これが発癌なのです。
私達は良好な生活習慣を維持することにより体細胞内のDNAの異常化を防ぎ、健康長寿を期待しましよう。