混合有機溶剤を使用する際の注意点について
「こうちさんぽメールマガジン」2008.10月号より
労働衛生工学担当相談員 中西 淳一
今回は、混合有機溶剤を使用している事業場の衛生管理者、有機溶剤作業主任者の方々に注意していただきたい点(溶剤組成と蒸気組成の相違)をご紹介します。
一般に、有機溶剤を使用する場合、有機成分抽出用、洗浄脱脂用、合成反応用等の目的には単一成分の有機溶剤が用いられることが多いですが、その他の用途、特に塗料用の有機溶剤としては、溶剤としての特性をより発揮させるために数種類の有機溶剤の混合物(混合有機溶剤)が用いられることが多く、塗装、印刷、接着等の有機溶剤業務では、シンナー等の混合有機溶剤が多量に使用されています。
シンナーは、相乗効果によって溶解能、蒸発特性、粘度(展延性)等を向上させることを目的として、性能の違う数種類の有機溶剤を混合したもので、
- 溶質に対し強い溶解力を有する主溶剤
- 主溶剤の溶解力を助ける助溶剤
- 粘度を下げて作業性を向上させる希釈剤
- 塗料用シンナーの場合には、急激な蒸発を押さえて空気中の水分の凝縮による塗膜の白化(ブラッシング)を防ぐ蒸発抑制剤(リターダー)
等を用途に応じて適当な割合で混合したものです。
このような混合有機溶剤を使用する場合、平衡蒸気濃度はそれぞれの物質の飽和蒸気圧と気液平衡関係に依存するため、混合有機溶剤が蒸発する場合、液相濃度と気相濃度は異なるという点に注意しなければなりません。
例えば、成分組成がトルエン66%、酢酸エチル14%、酢酸ブチル14%、ブタノール4%、セロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)2%のスプレー用シンナーが蒸発する場合、最初は、低沸点成分のトルエンと酢酸エチルを主とした蒸気が発生します。次いで蒸発率が50%くらいになりますとだんだん酢酸エチルが無くなってきてトルエン蒸気を主成分として、酢酸ブチルやブタノールの蒸気が徐々に増加するようになります。さらに蒸発が進むに従いだんだん高沸点成分が蒸発してきます。
従って、このシンナーを塗装工場で使用した場合には、
- 塗料の調合、希釈等の作業工程では、トルエンと酢酸エチルが1:1の割合で蒸発
- 噴霧塗装の作業工程では、トルエンと酢酸エチルが1:1ないし2:1の割合で蒸発
- 自然乾燥の作業工程では、トルエンに少量の酢酸ブチルが混合して蒸発
- 乾燥炉での焼き付けの作業工程では、トルエンと酢酸ブチルが1:1で混合し、これに残りのブタノールやセロソルブの高沸点成分が加わって蒸発
するものと推定されます。
このように同じシンナーを使用していても作業工程によって発生する蒸気の組成は異なりますので、作業環境の測定、評価の際にはご注意下さい。 以上
参考文献:有機溶剤作業主任者テキスト(中央労働災害防止協会)