インフルエンザ&インフルエンス
「こうちさんぽメールマガジン」2010.4月号より
産業医学担当相談員 坪崎 英治
インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染が原因となつて起こる病気であることは皆さんも御承知のとうりですが、ウイルスとはサイズが一万分の一ミリ以下の極小生物で,通常の顕微鏡では勿論見えません。電子顕微鏡では見えますが、普通は血生学的反応でその存在を判断します。この病気は昔からあり、古代エジプトの神聖文字であるヒエログリフで書かれた記録のなかにも、これに類似した症状をもった疫病の記載があるようです。
16世紀のイタリアでは毎年冬季に襲来するこの疫病の原因として当然ながらウィルスなどの認識などは有りませんから、当時の最高の科学である占星術を用いて、冬のこの時期の星座の並びの影響で、つまりinfluenceで起こるのだと説明したわけで、これが欧州各国にひろまり病名として現在に残っているわけです。
インフルエンザウィルスの生存環境としては比較的低温乾燥した方が良く、その繁殖というか増殖は生きている動物の細胞内で行われます。つまり人体の咽頭や気管の表面に付着したウィルスはしばらくして細胞内に侵入感染して、内部で増殖し範囲を拡大して、強い炎症症状をあらわすのです。このとき本人の血液内にすでにウィルスに対する特定の免疫抗体があればウィルスは撃滅され、発病を免れたり、軽くて済んだりするのです。免疫抗体はワクチンの接種を受けているか、あるいは過去に本病の感染歴があれば、産生されています。もし抗体がないと自己の体内で新たに産生されるまで感染は拡大して重症化しますので、抗ウィルス剤であるタミフルやリレンザの服用が不可欠となります。とくに小児や高齢者、免疫に問題のある人達は重症化し易く、死に至ることもあるようです。ただしこのウィルスは比較的生存力の弱い生き物で、もし人がインフルエンザ患者の咳で空中に飛散浮遊しているものを吸い込み、喉の粘膜に付着しても接触後一時間以内に嗽いをして、洗い流せば防げるようです。いったん飛散して後テーブルなどに落下したものを知らずに手で拾っても帰宅後の手洗いでOKです。マスクに付着したものも帰宅後一晩陰干しをしておけば翌朝には再使用が可能です。このさい洗わないほうが防禦用の薬品を残すために良いようです。
ウィルスのタイプにはA.B.C.の3種ありますが、このうち人に感染できるのはA型とCの一部です。その他は動物の細胞にだけ侵入できるのですが、恐ろしいことにインフルエンザウィルスは非常に頻回に変異を起こす性格をもっていることです。今まで人細胞には入れなかったタイプのものが変異の結果感染能力を新たに獲得すると、当然のことながら人類はこのウィルスに対する既得の抗体は保有していません。このため感染拡大は一気におこり、症状の重くなる高病原性なら死者も厖大なものになります。これをパンデミックといい1918年ごろ欧州を中心におきたスペイン風邪では全世界で4000万人程の死者がでたそうです。あまりの多さに当時進行中の第一次世界大戦が早めに終了したそうです。
今回の新型インフルエンザは幸いなことに、あまり高病原性ではなく、あるいは抗体もしらず既に獲得していた可能性もあり、たいしたことなく終息しつつありますが次はどうなることか誰にもわかりません。私達は日々それに備えて生きてゆかねばならないわけです。