産業保健情報誌「産業保健こうち」2008.9月号より
労働衛生工学担当相談員 門田 義彦
熱中症対策の必要な作業の指標には、WBGTが使われます。今回は、高知産業保健推進センターが保有し、手軽にWBGTを表示することのできる「熱中症指標計WBGT-113」を紹介します。
こわい熱中症
熱中症は、高温の作業環境で、体温調節が機能しなくなって、水分や塩分のバランスがくずれるため発症する障害です。この障害が、重篤となると後遺症が出たり、死に至ったりするおそれがあります。熱中症の症状は、初期にはめまい(立ちくらみ)や筋肉痛が見られ、やがてズキンズキンとする頭痛や倦怠感、吐き気などがあらわれ、さらにすすむと、手足の運動障害やけいれん、意識障害等がでます。これらの症状が出た場合は早急な手当が必要です。室温と湿度の高い屋内作業場、屋外の建設作業や農作業等では、熱中症対策をして下さい。そのためには、まず、温熱環境を把握します。
高温環境下での熱ストレスの指標として、WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位℃))が用いられます。このWBGTは、人体の熱収支に影響の大きい気温、湿度、放射熱の要素を取り入れた指標です。
WBGTは、乾球温度、湿球温度、黒球温度それぞれの値を使って以下の計算で求めます。
屋内・屋外で太陽照射のない場所
WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
屋外で太陽照射のある場所
WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
従来では黒球温度計と乾球・湿球温度計(アウグスト温度計)が必要でした。しかし、当センターの保有する熱中症指標計WBGT-113は、スイッチ操作ひとつで、作業場所のWBGT指標を計算して表示することできます。
熱中症指標計の使い方
- Powerスイッチを0.5秒以上押して電源を入れます。
なお屋外で使用するときは、Selectスイッチを押したまま、Powerスイッチを0.5秒以上押します。 - Selectスイッチを押すごとに測定項目の表示が変わります。
基準
WBGTによる作業の基準として厚生労働省通達「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」(平成19年7月29日付け基安発第0729001号)別添2のWBGT熱ストレスの基準値表を示します。
区分 | 例 | WBGT基準値 | |||
熱に順化して
いる人(℃) |
熱に順化して
いない人(℃) |
||||
0 安静 |
安静 | 33 | 32 | ||
1 低代 謝率 |
楽な座位:軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記):手および腕の作業(小さなペンチツール、点検、組立や軽い材料の区分け):腕と脚の作業(普通の状態での乗り物の運転、足のスイッチやペダルの操作)立位:ドリル(小さい部分):フライス盤(小さい部分)コイル巻き:小さい電気小巻き:小さい力の道具の機械:ちょっとした歩き(速さ3.5km/h) | 30 | 29 | ||
2 中程 度代 謝率 |
継続した頭と腕の作業(くぎ打ち、盛土):腕と脚の作業(トラックのオフロード操縦、トラクターおよび建設車両):腕と胴体の作業(空気ハンマーの作業、トラクター組立、しっくい塗り、中くらいの重さの材料を継続的に持つ作業、草むしり、草掘り、果物や野菜を摘む):軽量な荷車や手押し車を押したり引いたりする:3.5~5.5km/hの速さで歩く | 28 | 26 | ||
3 高代 謝率 |
強度の腕と胴体の作業:重い材料を運ぶ:シャベルを使う:大ハンマー作業:のこぎりを引く:硬い木にかんなをかけたりのみで彫る:草刈り:掘る:5.5~7km/hの速さで歩く。重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする:鋳物を削る:コンクリートブロックを積む | 気流を感じないとき 25 |
気流を感じるとき 26 |
気流を感じないとき 22 |
気流を感じるとき 23 |
4 極 高代 謝率 |
最大速度の速さでとても激しい活動:おのを振るう:激しくシャベルを使ったり掘ったりする:階段を登る:走る:7km/hより速く歩く | 23 | 25 | 18 | 20 |
【注1】
日本工業規格Z8504(人間工学-WBGT(湿球黒球温度)指標に基づく作業者の熱ストレスの評価-暑熱環境)付属書A「熱ストレス指数の基準表」を基に、同表に示す代謝率レベルを具体的な例に置き換えて作成した。
【注2】
熱に順化していない人とは、「作業する前の週に毎日熱にばく露されなかった人」をいう。
この他、日本産業衛生学会の「高温の評価基準」などが示されていますので参考にして下さい。
さらに、WBGTによる作業リスクの見積りは、厚生労働省パンフレット「化学物質、粉じん、騒音、暑熱に関するリスクアセスメントのすすめ方~鋳物製造業を例として」
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/kagaku2-7.pdf)などを参考として下さい。