調査研究結果

職場におけるメンタルヘルス不調とその対策の現状

はじめに

職場のメンタルヘルスについて、2007年に実施した事業場のアンケート調査で、高知県においても、他県と同様の不調者の発生があること、その一方で対策の実施率はやや低いことが推測された。そこで、3年後の不調者の発生と対策の状況と外部機関からの支援の利用との関連を検討することを目的として、アンケート調査を行った。

調査対象・方法及び回収状況

調査対象及び調査方法

調査対象は、高知産業保健推進センター(以下、当推進センター)に登録している1,077事業場で、2010年7-9月に郵送法による質問紙調査によって実施した。
調査票の質問項目は、2007年実施の調査と同じ6項目、すなわち、過去3年間のメンタルヘルス事例の有無とその対応状況、メンタルヘルスの事例発生にそなえた三次予防的対応策、メンタルヘルス対策に関する一次・二次予防的取組み、メンタルヘルス対策に関する取組み上の課題、メンタルヘルスケア指針(厚生労働省)の周知、メンタルヘルス対策における外部機関支援への要望に、メンタルヘルス不調による現在の休業者、「メンタルヘルス対策支援センター」の周知、メンタルヘルス対策における外部機関からの支援の利用、メンタルヘルス対策以外についての当推進センターの利用の4項目を加えた。なお、前回と同じ設問に対して選択肢を一部追加したものがある。
集計は、事業場規模(従業員数)別、業種別検討を基本とし、さらに、当センターの利用の有無別に検討した。また、一部の項目間のクロス集計を行い、考察に際して結果を用いた。
なお、比較に用いた2007年の調査結果は、今回と同じく当推進センターの登録事業場987事業場を対象として行われたものであり、回答した638事業場(64.6%)の資料を用いた。
*高知産業保健推進センター:職場におけるメンタルヘルス対策支援体制とその連携に関する調査研究.H20.3

回収状況及び回答事業場の従業員数別、業種別割合

回答は、722事業場(67.0%)から得た。
回答事業場の従業員数別、業種別構成は表1のとおりであり、規模別及び業種別割合は一部に2-3%の変動があるが前回と変わらなかった。ただし、金融・保険業は前回の17ヶ所が25ヶ所と50%に近い増加がみられる。この変動が調査結果に影響を及ぼしているかもしれない。

表1 従業員数・業種別回答事業場数
従業員数
(人)
製造業 建設業 運輸・
通信業
卸・
小売業
金融・
保険業
医療・
福祉
その他
の事業
無回答 計(%)
-29 50 47 7 9 3 1 51 0 168(23.3)
30-49 36 26 5 9 4 5 26 0 111(15.4)
50-99 37 15 13 35 7 35 48 1 191(26.5)
100-299 37 4 13 26 5 65 46 1 197(27.3)
300- 8 2 1 7 6 11 9 1 45(6.2)
無回答 1 0 1 0 0 0 2 6 10(1.4)

%
169
23.4
94
13.0
40
5.5
86
11.9
25
3.5
117
16.2
182
25.2
9
1.3
722(100.0)
100.0

調査結果及び考察

過去3年間のメンタルヘルス事例と事例発生時の対応

メンタルヘルス関連事例の経験

“過去3年間にメンタルヘルス(心の健康)に関する心身の不調や業務上の支障が生じた事例を経験したことがある”という事業場は39.1%であり、前回の34.0%から増加していた。
事業場の規模別には、30人未満の9.5%から300人以上の82.2%まで、従業員数が多いほど事例を経験した事業場が高率であった。(表2) 前回との比較では、30-49人と50-99人の規模で増加が多かった。また、300人以上を除く各群では「わからない」の回答が前回より2-3%低く、増加率の一部に担当者や調査回答者の関心の差も影響しているかもしれない。なお、300人以上では「わからない」が前回の1ヶ所から3ヶ所に増えていた。
また、今回調査項目に加えた“メンタルヘルス不調による現在の休業者”は12.2%の事業場でみられ、規模が大きいほど高率であり、300人以上では40.0%に達していた。
表2 過去3年間のメンタルヘルス事例の経験と現在の休業者(%)

従業員数(人) 事業場数 メンタルヘルス事例の経験 現在休業者あり
あり なし わからない
-29 168 9.5(12.1) 86.3 4.2 1.8
30-49 111 31.5(20.2) 64.9 3.6 2.7
50-99 191 39.3(29.8) 54.5 6.3 7.9
100-299 197 59.4(57.8) 37.6 3.1 14.9
300- 45 82.2(80.9) 11.1 6.7 40.0
全 数* 722 39.1(34.0) 56.4 4.6 12.2

( ):2007年調査の結果、以下の表についても同じ  全数*:従業員数無回答の10事業場を含む
なお、今回は「あり」の場合、”お構いなければ”として件数の記入を依頼し、63.8%の事業場から回答を得た。回答された件数は、1件のみの事業場が46.7%であり、以下、2件が28.9%、3件が14.4%%で3件までの事業場が90%を占めており、最高は10件であった。件数の合計は365件となり、回答事業場の平均件数は1.29件であった。規模別の平均件数は、300人以上が30人未満より少ないなど従業員数の増加に伴う傾向がみられなかった。(表3) ただし、300人以上では”事例あり”のなかで件数を回答した事業場が45.9%と低い。3年間の事例数の回答を求めたことで、件数が多い事業場が回答しにくかったことも考えられる。
表3 「事例あり」の事業場における事例件数回答率と平均件数(従業員数別)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
事例あり 16 35 75 117 37 282
件数回答あり(%) 75.0 68.6 70.7 63.2 45.9 63.8
平均件数(件) 1.31 0.94 1.23 1.56 1.27 1.29

従業員数無回答事業場は件数の回答なし
業種別には、過去3年間の事例経験がある事業場は、医療・福祉と金融・保険業がともに60%を超えて高率、建設業が12.8%で低率、そのほかの業種では30%台であった。現在休業者がいる事業場も医療・福祉の26.5%が高く、建設業が3.2%で低かった。各業種の従業員数別の割合を反映しているものと考えられる。
前回との比較では、とくに金融・保険業が44.4%から60.0%と大きく増えており、次いで製造業の増加が大きかった。(表4) なお、以下の業種別結果の図表では、他の事業を除いて事例の経験率順に示した。
表4 過去3年間のメンタルヘルス事例(業種別)(%)

業種 回答数 メンタルヘルス事例の経験 現在
休業者あり
あり なし わからない
製造業 141 37.9(30.5) 57.4 4.7 7.7
建設業 79 12.8(16.5) 79.8 7.5 3.2
運輸・通信業 35 30.0(31.4) 65.0 5.0 7.5
卸・小売業 87 31.4(28.7) 64.0 4.7 9.3
金融・保険業 18 60.0(44.4) 36.0 4.0 12.0
医療・福祉 94 65.8(62.8) 29.9 4.3 26.5
他の事業 174 39.6(33.3) 57.1 3.3 14.8

事例の問題の内容

事例の“不調や仕事への支障”の内容(複数回答、%は対事例あり)は、「職場の人間関係」(以下、「人間関係」)が事例のある事業場の48.6%、「長期休職」46.1%、「仕事への意欲低下」(「意欲低下」)42.9%が多く、他は10-18%であった。40%を超えた3項目は前回も上位3位までを占めていたが、「人間関係」は57.1%から減少しており、逆に他の2項目は前回よりやや増加していた。その他では、「無断欠勤・遅刻・早退」(「無断欠勤」)が減少していた。(表5)
規模別には、300人以上に「長期休職」と「職場の人間関係」、「仕事への意欲低下」が多かった。前回との比較では、「人間関係」が30人未満、50-99人と100-299人の3群で減っていた。そのほか、30人未満では「無断欠勤」の減少と「意欲低下」の増加がみられ、300人以上で「過労からの体調不良」がやや増加していた。また、「入・退院の繰り返し」が、増加率は低いが各規模を通じて増加傾向にあった。
表5 事例の問題の内容(従業員数別)(複数回答、%:対事例あり)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数*
事例あり 16 35 75 117 37 282
職場の人間関係 50.0 28.6 46.7 53.8 51.4 48.6(57.1)
仕事への意欲低下 43.8 40.0 46.7 40.2 48.6 42.9(38.2)
過労からの体調不良 0 11.4 16.0 16.2 16.2 14.5(12.9)
仕事上のミス・トラブル 6.3 11.4 13.3 14.5 21.6 14.2(12.4)
無断欠勤・遅刻・早退 12.5 17.1 20.0 16.2 21.6 17.7(23.5)
長期休職 43.8 42.9 36.0 49.6 59.5 46.1(41.9)
入・退院の繰り返し 6.3 8.6 5.3 11.1 21.6 10.3(6.5)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む
業種別に全数で多くあげられた3項目を比較すると、事例経験の多い医療・福祉と金融・保険業はともに「人間関係」が多いが、「長期休職」は医療・福祉に多く、「意欲低下」は金融・保険業は少なかった。また、製造業はいずれも全業種の平均との差が大きくないのに対して、建設業は「意欲低下」が多く「人間関係」が少ない、卸・小売業は「意欲低下」が多く「長期休職」が少ない、他の事業は「長期休職」が多い、という特徴がみられた。その他の項目では、建設業で「過労からの体調不良」と「仕事へのミス・トラブル」が皆無で「無断欠勤」がやや多かった。(表6)
メンタルヘルス不調の問題内容については、従業員数別には特定の傾向がみられるものが少なかった。したがって、以上の業種ごとの職務特徴や就業環境、衛生管理体制などとの関連がより大きいことが考えられる。
表6 事例の問題の内容(業種別)(複数回答、%:対事例あり)

業種 医療
福祉
金融
保険
製造
小売
運輸
通信
建設 他の
事業
回答数 77 15 64 27 12 12 72
職場の人間関係 55.8 66.7 46.9 51.9 58.3 33.3 37.5
仕事への意欲低下 41.6 20.0 48.4 51.9 25.0 58.3 41.7
過労からの体調不良 19.5 20.0 6.3 18.5 8.3 0.0 16.7
仕事のミス・トラブル 14.3 20.0 12.5 18.5 25.0 0.0 13.9
無断欠勤 19.5 6.7 18.8 14.8 8.3 25.0 19.4
長期休職 50.6 26.7 42.2 29.6 50.0 41.7 52.8
入・退院の繰り返し 9.1 0.0 12.5 18.5 0.0 0.0 12.5

問題発生時の対応

“事例発生時に誰が対応したか”(複数回答、%:対事例あり)については、「上司」65.2%と「人事・労務」53.9%が多く、医療職は「産業医」22.7%、「保健師・看護師」12.8%であった。 (表7) 前回との比較では、「人事・労務」が減っており、「産業医」が倍増していた。なお、前回は「上司」を選択肢として設定しておらず、「その他」の欄に9.7%の記入があった。
従業員数別には、「上司」が30人未満で75.0%と他の群より多いが、特定の傾向がみられないのに対して、「人事・労務」は従業員数が多い事業場で高率の傾向を認めた。また、医療職はともに300人以上でもっとも多いが、50人未満の事業場でも13-20%で関与していることが注目される。前回との比較では、50人以上の各群で「人事・労務」が減っていたが、前回は「上司」の選択肢がなかったことが影響しているかもしれない。「産業医」は小規模を含めて各群で増加していた。(表7)
表7  メンタルヘルス問題の事例への対応(従業員数別)(複数回答)(%:対事例あり)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722(63.8)
<対応者>
人事・労務が対応
43.8 40.0 52.0 56.4 67.6 53.9(64.1)
上司が対応 75.0 51.4 65.3 68.4 64.9 65.3(-)
産業医が対応 12.5 20.0 16.0 25.6 32.4 22.7(10.1)
保健師・看護師が対応 0.0 8.6 14.7 11.1 24.3 12.8(16.1)
<対応方法>
医療機関への受診を勧奨
56.3 37.1 61.3 67.5 54.1 59.6(62.7)
相談機関等に相談 6.3 0.0 4.0 4.3 10.8 5.0(6.9)
本人と家族にまかせた 12.5 28.6 10.7 13.7 10.8 14.2(25.3)
産保センターに問合せ 0.0 2.9 1.3 6.0 2.7 3.6(-)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む
業種別には、「上司」の対応が製造業を除いて67-78%といずれの業種でも高く、建設業と金融・保険業、卸・小売業では「人事・労務」も「上司」と同程度にあげられていた。一方で、医療・福祉、運輸・通信業と他の事業では、いずれも「人事・労務」は50%未満で「上司」より関与が少ない。また、製造業は「上司」40.6%に対して「人事・労務」が62.5%と高く、その他の業種と異なっていた。また、運輸・通信業では「上司」の75.0%に対して「人事・労務」が33.3%でとくに少ないという特徴がみられた。医療職は、「産業医」が金融・保険業でとくに多く、建設業では皆無、「保健師・看護師」は運輸・通信業、金融・保険業、医療・福祉で多かった。(表8)
前回との比較では、いずれの業種でも「人事・労務」が減少したが、前回「上司」を選択肢としていなかったことも一因かもしれない。医療職については、「産業医」が金融・保険業と医療・福祉で大幅に増え、「保健師・看護師」は運輸・通信業で増えていた。
“事例発生時にどのように対応したか”(複数回答、%:対事例あり)に対しては、いずれの項目にもチェックのない回答も多かったが、「病院受診を勧めた」(以下、「病院受診」)が59.6%と前回とほぼ同じ回答率であり、「本人と家族に任せた」は14.2%で、前回の25.3%から減っていた。(表7) 事業場の対応がすすんだためであれば望ましい傾向といえる。
従業員数別には、とくに注目すべき差がみられなかった。(表7) 前回との比較では、「病院受診」がとくに300人以上で78.9%から54.1%と減っており、「本人と家族にまかせた」は各群とも減少していた。
業種別には、卸・小売業のチェックなしがとくに多かったが、「本人と家族にまかせた」が他の事業と製造業に多かった。(表8) 前回との比較では、建設業の「病院受診」が増加し、金融・保険業では減少していた。また、卸・小売業は「病院受診」が76.0%から33.3%へと減少していたが、チェックのない回答も多かった。「本人と家族にまかせた」はすべての業種で減少したが、運輸・通信業、卸・小売業と医療・福祉の減少率が大きかった。
表8 メンタルヘルス問題の事例への対応(複数回答)(%:対事例あり)

業種 医療
福祉
金融
保険
製造
小売
運輸
通信
建設 他の
事業
回答数 77 15 64 27 12 12 72
<対応者>
人事・労務が対応
48.1 66.7 62.5 66.7 33.3 75.0 44.4
上司が対応 75.3 66.7 40.6 77.8 75.0 75.0 68.1
産業医が対応 22.1 53.3 21.9 22.2 16.7 0.0 22.2
保健師・看護師が対応 26.0 26.7 3.1 3.7 25.0 8.3 6.9
<対応の内容>
医療機関への受診勧奨
66.2 60.0 57.8 33.3 58.3 75.0 59.7
相談機関等に相談 1.3 0.0 4.7 11.1 8.3 16.7 4.2
本人と家族にまかせた 5.2 6.7 20.3 7.4 0.0 16.7 23.6
産保センターに問合せ 3.9 0.0 4.7 3.7 0.0 0.0 4.2

メンタルヘルス対策の取組みと取組み上の課題

メンタルヘルス不調の発生にそなえた対応策

メンタルヘルスの事例が発生した場合への対応策については、23.4%の事業場が「決まっている」と回答した。「検討中」の15.8%をあわせると、約40%の事業場が問題発生にそなえた対応策に取組んでいることになる。前回は「決まっている」17.2%、「検討中」12.5%であり、いずれも増加していた。(表9)
規模別には、「決まっている」事業場が30人未満の6.6%から300人以上の44.4%まで、 規模が大きいほど多く対応策を決めていた。(表9) この状況は、事例の経験率と一致している。前回との比較では、300人以上を除いて増加しているが、100-299人で増加率が大きかった。
業種別には、「決まっている」が「金融・保険業」が60.0%でもっとも高く、次いで「運輸・通信業」の45.0%が高かった。前回との比較では、卸・小売業、運輸・通信業、製造業で10%以上の増加を認めた。業種別の事例経験との関係をみると、経験率が最も高い医療・福祉で増加していない点が注目される。(表9)
表9 メンタルヘルス問題の発生時にそなえた対応策(%)

従業員数(人) 回答数 決まっている 業種 回答数 決まっている
-29 168 6.6(3.8) 医療・福祉 94 28.2(27.7)
30-49 111 12.6(10.1) 金融・保険 18 60.0(61.1)
50-99 191 24.1(19.9) 製造 141 18.9 (8.9)
100-299 197 38.1(21.2) 卸・小売 87 23.3(10.3)
300- 45 44.4(48.9) 運輸・通信 35 45.0(34.3)
全数* 722 23.4(17.2) 建設 79 13.8(8.9)
他の事業 174 19.2(16.1)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む
対応策の内容については、表10の選択肢について回答を求めた。(複数回答) 回答事業場数の12.2%が「管理・監督者の対応、担当部署の役割を決めている」(以下、「管理者等の役割」)、9.3%が「治療・休職・職場復帰について対応策を決めている」(「対応策の策定」)などで、これらは前回と変わらなかった。「相談機関(病院など)を決め日ごろから連絡を取っている」(「相談機関」)が6.6%で、わずかであるが減少していた。(表10)
規模別には、いずれの対応策も従業員数の多い事業場で高率であった。(表10) また、業種別には、金融・保険業が「対応策の策定」40.0%、「管理者等の役割」及び「マニュアル作成」がそれぞれ24.0%、運輸・通信業の「相談機関」22.5%が高率であった。
表10 メンタルヘルス問題事例発生時の対応策の内容(従業員数別)(複数回答)(%)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数*
回答数 168 111 191 197 45 722(638)
治療・休職・職場復帰について対応策を決めている 3.0 6.3 10.5 12.2 22.2 9.3(9.2)
対応のためのマニュアルを作成 1.8 3.6 4.7 8.6 8.9 5.1(4.1)
明文化していないが管理・監督者の対応、担当部署の役割を決めている 1.2 8.1 14.7 18.8 20.0 12.2(12.4)
相談機関を決め、日ごろから連絡を取っている 3.6 2.7 4.7 12.2 11.1 6.6(8.2)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む

メンタルヘルス不調の発生予防等に関する対策

“メンタルヘルス対策や心の健康づくりに関して何らかの取組みを行っている”という事業場が43.5%で、前回の38.9%からやや増加した。(表11)
従業員数別には、従業員数が多いほど高率であり、30人未満の15.5%から300人以上の91.1%まで規模が大きいほど取組みのある事業場が多かった。前回との比較では100人未満の3群では増加がみられず、100人以上の2群で大幅な増加がみられた。(表11)
業種別には「金融・保険業」の84.0%が群を抜いて多く、次いで医療・福祉の56.4%、運輸・通信業の55.0%が多かった。前回との比較では、医療・福祉と他の事業の増加が目立っている。(表11)
表11 メンタルヘルス不調発生予防等に関する取組み(%)

従業員数(人) 回答数 あり 業種 回答数 あり
-29 168 15.5(15.9) 医療・福祉 117 56.4(44.7)
30-49 111 25.2(32.6) 金融・保険 25 84.0(88.9)
50-99 191 42.9(44.6) 製造 169 36.7(34.0)
100-299 197 67.5(47.0) 卸・小売 86 37.2(37.9)
300- 45 91.1(74.5) 運輸・通信 40 55.0(51.4)
全数* 722 43.5(38.9) 建設 94 30.9(32.9)
他の事業 174 42.3(34.5)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む
取組みの具体的な内容については、前回の7項目に「管理・監督者の研修」と「衛生委員会での審議」を選択肢として加えた(複数回答)。結果は「相談の実施」18.6%(%:対全回答数、以下同じ)から「事業場外の専門機関との連携」(「専門機関」)7.9%まで項目間に大きな差がみられなかった。前回との比較では、増減率は小さいが「相談の実施」、「従業員に対する教育・研修会」(「従業員への教育」)が増加し、「スポーツ・レクレーションの実施」(スポーツ等」)と「健康診断での問診(問診表での質問項目など)」(「健診での問診」)をあげる事業場が減っていた。(表12)
表12 メンタルヘルス対策の取組みの内容(複数回答)(%)

取組みの内容 選択率(%)
回答事業場数 722(638)
従業員に対する教育・研修会 18.0(16.5)
担当者(人事や安全・衛生管理者など)の研修 15.9(15.4)
社内報・パンフレットによる啓発 14.1(11.8)
スポーツ・レクレーションの実施 11.1(14.3)
相談(相談窓口)の実施 18.6(14.4)
健康診断での問診(問診票に質問項目に入れるなど) 12.3(13.6)
事業場外の専門機関との連携 7.9(8.0)
管理・監督者の研修 8.7(-)
衛生委員会での審議 17.6(-)

規模別の取組み率は、各項目とも従業員数が多いほど高いが、とくに300人以上では「相談」が55.6%で、「社内報・パンフレットによる啓発」(「社内報等」)と「担当者の研修」が40%を超えている。次いで、100-299人では、「相談」、「従業員への教育」、「担当者の研修」、「衛生委員会での審議」が30%前後にみられた。このうち「相談」と「従業員への教育」は前回の17-18%に比べてかなり増加している。前回は50-99人の事業場との差が少なかったが今回は拡大しており、この間にこの規模での取組みがすすんだことがうかがえる。(図1)
一方で、 “取組みあり”の中での実施率を規模別にみると、「相談の実施」は30人未満の26.9%から300人以上の48.7%までほぼ規模が大きいほど実施率が高かった。逆に「健診での問診」は30人未満では取組みありの50.0%が実施していたが、50人以上の各群では25%前後であった。教育・研修については「従業員の教育」は48.7%の300人以上以外では27-36%でほぼ同程度であり、「担当者の研修」は50人未満の2群が低率、「管理・監督者の研修」はいずれも12-29%で差が少ないという特徴がみられた。 また、「衛生委員会での審議」は、30人以上の4群は30%を超えていたが、50-99人でもっとも多かった。(表13)

図1 メンタルヘルス対策:取組みの内容(従業員数別)


表13  メンタルヘルス対策の取組みの内容(複数回答)(%:対事例あり)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722(63.8)
従業員の教育・研修 26.9 35.7 28.0 30.8 48.7 41.4(42.3)
担当者の研修 7.7 17.9 42.7 39.8 43.9 36.6(37.1)
社内報等による啓発 26.9 35.7 28.0 30.8 48.8 32.5(30.2)
スポーツ等の実施 11.5 39.3 25.6 24.1 29.3 25.5(36.7)
相談の実施 26.9 39.3 35.4 45.9 61.0 42.7(37.1)
健康診断での問診 50.0 39.3 26.8 24.8 24.4 28.3(35.1)
専門機関との連携 15.4 17.9 18.3 18.8 17.1 18.2(20.6)
管理・監督者の研修 11.5 28.6 23.2 15.0 29.3 20.1(-)
衛生委員会での審議 3.8 32.1 51.2 45.1 36.6 40.4(-)

全数*:従業員数不明の10事業場を含む
業種別の取組み内容については、金融・保険業では64.0%が「相談」、52.0%が「社内報等」を実施しており、ほかにも4項目が30%前後に実施され高率であった。医療・福祉は「従業員への教育」、「衛生委員会」、「担当者の研修」が30%前後であったが、「相談」や「社内報等」、「健診での問診」が金融・保険業に比べて少なかった。専門職が多いという業種の特性によると考えられる。運輸・通信業では「相談」、「衛生委員会」「社内報等」「健診での問診」が30%前後であった。(図2)
取組みの実施率が低い業種における取組み内容の特徴をみるため、”取組みあり”の事業場の中での実施状況を検討したところ、製造業では「担当者の研修」と「衛生委員会」、卸・小売業では「相談の実施」と「社内報等」、他の事業では「従業員への教育」と「相談」、「衛生委員会」がそれぞれ40%を超えており、建設業では「社内報等」と「相談」が39%でもっとも多いなど、業種によって差がみられた。(表14)

図2 メンタルヘルス対策の取組み内容(業種別)

表14 メンタルヘルス対策の取組みの内容(複数回答)(%:対事例あり)

医療
福祉
金融
保険
製造
小売
運輸
通信
建設 他の
事業
従業員への教育 54.5 33.3 38.7 25.0 36.4 35.7 46.8
担当者の研修 48.5 33.3 45.2 28.1 18.2 17.9 36.4
社内報等による啓発 15.2 61.9 19.4 40.6 50.0 39.3 39.0
スポーツ等の実施 33.3 19.0 24.2 25.0 9.1 32.1 24.7
相談の実施 39.4 76.2 33.9 43.8 54.5 39.3 41.6
健康診断での問診 18.2 38.1 22.6 34.4 50.0 21.4 33.8
専門機関との連携 9.1 19.0 19.4 21.9 18.2 32.1 16.9
管理・監督者の研修 13.6 38.1 19.4 18.8 22.7 7.1 24.7
衛生委員会での審議 53.0 23.8 40.3 34.4 50.0 25.0 42.9

取組み上の課題

“メンタルヘルス対策や心の健康づくりへの取組みが十分に行われていない理由、また、取組み上の大きな課題”について、表15の選択肢によって回答を求めた。(複数回答) もっとも多かったのは「人的余裕がない」(以下、「人的余裕」)の38.0%で、「経済的余裕がない」(「経済的余裕」)の11.8%以外は、「時間的余裕がない」(「時間的余裕」)、「適切なスタッフがいない」(「適切なスタッフ」)が体制整備に関する項目が23-28%と多く選択されており、「プライバシーの確保が困難」18.1%もあわせて、前回と大きな差はなかった。一方、「何から取組んだらよいか分からない」(「取組み方」)も25.3%にみられ、「必要を感じていない」の22.2%とともに、前回から僅かな低下にとどまった。(表15)
従業員数別には、「必要を感じていない」が30人未満の45.2%から300人以上の 4.4%まで小規模ほど高率であり、とくに30人未満で高かった。体制上の課題では「経済的余裕」は従業員数が少ない事業場に多いが、他の項目については特定の傾向がみられなかった。「プライバシーの確保が困難」は30人から299人までの3群がやや高率であった。300人以上では情報保護対策がすすんでおり、一方30人未満では対策の必要を感じていないなどで課題にあがりにくいことも考えられる。「取組み方」は300人以上が他の群より低率であった。(表15)
前回との比較では、300人以上で「時間的余裕」と「人的余裕」がやや増え、「取組み方」が減少し、30-49人では「必要を感じていない」が減るなどの変化がみられた。(表15)
業種別には、体制上の課題については金融・保険業が全項目にわたって低率であり、次いで運輸・通信業が「人的余裕」と「プライバシー確保」が全業種の平均程度であるものの、「適切なスタッフ」の5.0%が全業種中もっとも低いなど、低率の項目が多かった。
表15 メンタルヘルス対策の取組み上の課題(複数回答)(%)

-29人 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722(682)
必要を感じていない 45.2 23.4 16.8 10.7 4.4 22.2(24.1)
取組み方が分からない 26.2 25.2 27.8 24.9 15.6 25.4(27.9)
経済的余裕がない 18.5 15.3 8.4 8.6 4.4 11.8(13.8)
時間的余裕がない 25.6 22.5 28.3 27.4 31.1 26.3(26.0)
人的余裕がない 36.3 43.2 35.6 38.1 42.2 38.0(35.4)
適切なスタッフがいない 19.0 21.6 26.7 24.4 24.4 23.0(20.4)
プライバシーの確保困難 13.7 23.4 19.4 18.8 11.1 18.1(20.7)

一方、高率の回答は、卸・小売業の「人的余裕」と「時間的余裕」、製造業と建設業の「人的余裕」、医療・福祉の「適切なスタッフ」などでみられた。
また、「取組み方」は金融・保険業と運輸・通信業が低くて他の業種がやや高く、「必要を感じない」の回答は製造業、建設業の小規模の多い2業種で高率だった。(表16) 前回との比較では、「必要を感じていない」は医療・福祉と建設業で減少し、運輸・通信業と金融・保険業では選択率は低いが増加していた。また、「取組み方」については、卸・小売業で前回の36.8%から大幅に減少していた。
表16 メンタルヘルス対策の取組み上の課題(業種別)(複数回答)(%)

業種 医療
福祉
金融
保険
製造
小売
運輸
通信
建設 他の
事業
回答数 117 25 169 86 40 94 182
必要を感じていない 12.8 12.0 27.2 18.6 17.5 28.7 24.7
取組み方が分からない 26.5 12.0 24.3 24.4 17.5 24.5 30.2
経済的余裕がない 3.4 0.0 17.2 17.4 10.0 14.9 9.3
時間的余裕がない 30.8 16.0 27.2 30.2 20.0 26.6 24.7
人的余裕がない 39.3 28.0 39.1 45.3 42.5 35.1 34.6
適切なスタッフがいない 32.5 16.0 22.5 25.6 5.0 16.0 25.3
プライバシーの確保困難 15.4 8.0 20.7 19.8 22.5 19.1 17.6

メンタルヘルス対策における外部機関の利用と支援への要望

メンタルヘルス対策における外部機関の利用

メンタルへルス対策において支援を受けたことがある機関として、表18の各機関を選択肢として回答を求めた。いずれかをあげた事業場は25.7%であった。なお、本項目は、前回は調査していない。規模別には従業員数が多いほど高率であり、30人未満の3.6%から300人以上の52.9%まで大きな差を認めた。
利用した機関としては、医療機関10.1%が多く、以下、「産業保健推進センター」    (メンタルヘルス支援センターを含む)(以下、「推進センター」)6.4%、「カウンセリング機関」5.1%、「会社の提携機関」3.9%などであった。
規模別には、「会社の提携機関」を除いてはおおむね従業員数が多いほど高率であるが、とくに100人以上の2群では「医療機関」が多かった。300人以上では「カウンセリング機関」も多く、「産業保健推進センター」は100人未満の3群ではそれらと近い利用状況となっている(表17)
表17 メンタルヘルス対策における外部機関の利用(従業員数別)(%)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722
いずれかの機関の利用あり 3.6 15.4 25.6 41.8 52.9 25.7
医療機関 0.6 5.4 8.4 19.8 22.2 10.1
カウンセリング機関など 0.0 1.8 7.3 6.6 15.6 5.1
会社の提携機関 1.2 5.4 3.7 6.6 0.0 3.9
精神保健福祉センターなど 0.0 0.9 0.0 1.5 4.4 0.8
産業保健推進センター 0.6 2.7 7.3 11.7 11.1 6.4

表18 メンタルヘルス対策における外部機関の利用(業種別)(%)

業種 製造 建設 運輸
通信

小売
金融
保険
医療
福祉
他の
事業
回答数 169 94 40 86 25 117 182
医療機関 9.5 2.1 5.0 4.7 28.0 20.5 9.3
カウンセリング機関など 3.6 1.1 5.0 8.1 20.0 5.1 4.9
会社の提携機関 3.0 3.2 10.0 3.5 20.0 0.0 4.4
精神保健福祉センターなど 1.2 0.0 0.0 1.2 0.0 2.6 0.0
産業保健推進センター 8.9 2.1 0.0 2.3 0.0 12.8 6.6

業種別には、金融・保険業が「医療機関」、「カウンセリング機関」と「会社の提携機関」がそれぞれ20%を超えて多く、医療・福祉は「医療機関」に次いで「産業保健推進センター」が多い、運輸・通信業では「会社の提携機関」が多いなどの特徴がみられた。(表18)

メンタルヘルス対策における外部機関支援への要望

“今後、メンタルヘルス対策を進める上で外部機関からの支援を希望するもの”として表19の7項目を選択肢として回答を求めた(複数回答)。
全数では、「資料・パンフレットなどの情報提供」(以下、「情報提供」)が25.9%で多く、他の項目はいずれも11-18%で差が少なかった。しかし、「情報提供」は前回の41.4%に対して大きく減少しており、「メンタルヘルス関連の講演・研修の講師の派遣」(「講師の派遣」)以外は、「健診時の質問紙調査」が22.9%から13.6%、「メンタルヘルス関連の専門家・医療機関の紹介」(「専門家の紹介」)が16.1%から11.5%など、いずれの項目でも減少していた。(表19)
規模別には、おおむね従業員数の多い事業場で要望が多かったが、「担当者への研修」を除く項目では300人以上と100-299人との差が少なかった。前回は、「対策のすすめ方の相談」(「対策のすすめ方」)以外はかなりの差がみられた。この3年間に100-299人の事業場での取組みがすすみ、外部機関への要望も300人以上と似た状況になってきたためかもしれない。(表19)
表19 メンタルヘルス対策における外部機関支援への要望(従業員数別)(複数回答)(%)

-29人 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722(638)
対策のすすめ方の相談 7.1 15.3 17.3 25.4 28.9 17.5(19.0)
事例の相談 6.0 12.6 20.9 24.4 28.9 17.5(22.1)
研修の講師派遣 3.0 9.9 14.1 27.4 28.9 15.4(14.3)
担当者への研修 3.0 16.2 17.3 26.4 35.6 17.2(20.9)
専門家等の紹介 3.6 4.5 13.6 18.3 22.2 11.5(16.1)
パンフレットなどの情報提供 19.0 20.7 28.8 32.0 26.7 25.9(41.4)
健診時の質問紙調査 7.7 11.7 16.8 15.7 17.8 13.6(22.9)
要望項目のチェックなし 66.7 50.5 41.4 25.9 37.8 44.6(24.9)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む
業種別には、医療・福祉が全項目を通じて高く、事例経験が多い状況を反映していることが考えられる。とくに「情報提供」、「講師の派遣」、「担当者の研修」が31-41%と高率であった。「医療・福祉」と並んで事例経験の多い金融・保険業では、「事例の相談」が12.0%と建設業に次いで低く、一方で「担当者への研修」が24.0%で高かった。運輸・通信業も「事例の相談」が22.5%に対して「講師派遣」、「担当者への研修」が5-8%と低率であった。また、卸・小売業は「対策のすすめ方」と「事例の相談」がやや高く、製造業が各項目にわたって10-17%の要望があるのに対して、建設業は「情報提供」、「質問紙調査」を除いて10%未満など、業種間に差がみられた。(表20)
表20 メンタルヘルス対策における外部機関支援への要望(業種別)(複数回答)(%)

業種 医療
福祉
金融
保険
製造
小売
運輸
通信
建設 他の
事業
回答数 117 25 169 86 40 94 182
対策の進め方の相談 26.5 16.0 16.0 20.9 10.0 9.6 16.5
事例の相談 25.6 12.0 16.6 17.4 22.5 8.5 16.5
研修の講師派遣 32.5 24.0 10.1 9.3 5.0 4.3 18.1
担当者への研修 31.6 24.0 14.2 8.1 7.5 8.5 20.3
専門家等の紹介 15.4 16.0 10.1 14.0 17.5 4.3 11.0
パンフレットなどの情報提供 41.0 20.0 19.5 19.8 25.0 21.3 28.0
健診時の質問紙調査 18.0 8.0 16.0 12.8 2.5 11.7 12.6
要望項目のチェックなし 20.5 48.0 50.9 48.8 42.5 61.5 39.4

一方で、要望項目のいずれにもチェックしていない(以下、「チェックなし」)事業場が半数近くの44.6%にみられ、前回の24.9%から大きく増加していた。規模別には、30人未満では「チェックなし」が66.7%を占めており、他の群でも26-51%にみられた。前回との比較では、規模によって異なるが9-34%と増加している。(表19) 業種別には、「チェックなし」は建設業が高率で、医療・福祉が低率であった。(表20)
これらの要望の減少は、メンタルヘルス不調が増加し、”対策の取組み方が分からない”という回答も減っていないなかでみられることになる。規模・業種によっては、支援を要しない状況になったためと考えられるものもあるが、そうした想定が困難な結果も少なくない。前回の調査以降、メンタルヘルス対策支援センターの設置などの支援体制の強化もあるが、事業場のニーズやこれまでの支援提供内容への評価などを含めて、その要因について一層の検討が必要である。

メンタルヘルス対策指針及びメンタルヘルス対策支援センターの周知状況

「メンタルヘルスケア指針」(厚生労働省)の周知

厚生労働省のメンタルへルス指針について、「知っている」、「聞いたことがある」、「知らない」を選択肢として回答を求めた。結果は、全数では、職場のメンタルヘルス指針を「知っている」が26.6%、「聞いたことがある」が47.8%であった。前回のそれぞれ20.4%、40.9%に比べて増加している。(表21)
規模別には従業員数が多いほど「知っている」が多く、30人未満の7.1%に対して300人以上では46.7%%と大きな差を認めた。「聞いたことはある」を加えた割合は、30人未満から順に56.5%、78.4%、75.9%、82.2%、91.1%であった。
前回との比較では、50-99人と100-299人の両群で「知っている」が増加しており、逆に300人以上では大きく減少していた。(表21) この減少の要因について、調査回答者の職種の分布、職種別の周知状況などについて検討したが、説明可能な結果が得られなかった。前回の調査が行われたのは、平成18年に出された新指針に関する講習会が活発に実施されていた時期であり、この規模の関係者は高率に参加していた可能性がある。その後の関係者の異動等に伴って「知っている」が減り、「聞いたことはある」が増えたのかもしれない。
業種別には、「知っている」は医療・福祉が37.6%で最も高く、次いで製造業、他の事業、卸・小売業が26-28%であった。製造業以下の3業種はいずれも前回に比べて増加していた。一方、金融・保険業が44.4%から24.0%へと大きく減少しており、運輸・通信業でも減少していた。この減少についても、前述の前回調査時の講習への参加状況が関連しているかもしれない。(表21)
表21 メンタルヘルス指針の周知状況(%)

従業員数(人) 回答事
業場数
メンタルヘルス指針
知っている
業種 回答事
業場数
メンタルヘルス指針
知っている
-29 168 7.1(5.7) 製造 169 28.4(17.7)
30-49 111 18.0(10.1) 建設 94 13.8(13.9)
50-99 191 30.9(18.8) 運輸・通信 40 17.5(22.9)
100-299 197 40.1(29.1) 卸・小売 86 25.6(17.2)
300- 45 46.7(66.0) 金融・保険 25 24.0(44.4)
全数* 722 26.6(20.4) 医療・福祉 117 37.6(33.0)
他の事業 182 27.5(17.2)

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む

メンタルヘルス対策支援センターの周知状況

推進センターが平成20年度から受託しているメンタルヘルス対策センター(以下、支援センター)について、「知っている」、「聞いたことはある」「知らない」の選択肢で回答を求めた。「知っている」の回答は26.9%でメンタルヘルス指針の場合とほぼ同じであった。また、「聞いたことはある」は37.8%で、ともに規模別には、30人未満の10.1%から300人以上の46.7%まで、従業員数が多いほど「知っている」事業場が高率であった。 (表22)
今回の回答事業場は、「推進センター」の登録事業場であり、「支援センター」を紹介するリーフレットや情報紙(推進センターの瓦版)は、規模にかかわらず同じものを送付している。規模別の周知状況の要因としては、ホームページやメール・マガジン、あるいは研修などの利用状況が考えられるが、事例経験の有無などによる関心のちがいなども反映しているのかもしれない。
表22 メンタルヘルス対策支援センターの周知状況(%)

従業員数
(人)
回答事
業場数
支援センター 業種 回答事
業場数
支援センター
知って
いる
聞いたこ
とはある
知って
いる
聞いたこ
とはある
-29 168 10.1 43.5 医療・福祉 117 38.5 39.3
30-49 111 20.7 48.7 金融・保険 25 28.0 20.0
50-99 191 32.5 26.7 製造 169 29.6 34.3
100-299 197 35.0 39.6 卸・小売 86 24.4 36.1
300- 45 46.7 26.7 運輸・通信 40 22.5 30.0
全数* 722 26.9 37.8 建設 94 16.0 55.3
他の事業 182 24.7 35.2

全数*:従業員数無回答の10事業場を含む

産業保健推進センターの利用とメンタルヘルス対策の取組みとの関連

産業保健推進センター事業の利用状況

今回の調査では当推進センターの利用とメンタルヘルス対策の取組みの関連をみるため、“メンタルヘルス対策以外のことで当センターを利用したこと”の設問で表23の選択肢により回答を求めた。
もっとも多かったのは「情報誌等の送付資料」であるが、選択率の16.8%(121事業所)であった。今回の対象事業場は全数が情報誌等を送付している事業場であり、担当者が手にするだけでなく、これらの資料を積極的に活用しているかという観点から回答されたのかもしれない。その他、「研修」が11.2%(81)、「図書・ビデオ教材など」8.9%(64)などであり、73.0%の事業場がいずれも選択していていなかった。(表23)
規模別には、おおむね従業員数が多いほど利用率が高いが、事業別には「窓口相談」、「実地相談」と「メール・マガジン」など100-299人が多いものもあり、「研修」と「図書・ビデオ教材等」は100人以上の2群では20%が利用していた。(表23)
表23 当推進センターの利用状況(従業員数別)(複数回答)(%)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722
窓口相談 0.0 0.9 1.1 6.1 4.4 2.4
実地相談 0.0 0.9 1.6 2.5 0.0 1.2
研修 0.0 4.5 14.7 19.3 20.0 11.2
図書・ビデオ教材・測定機器など 3.0 2.7 10.0 14.7 15.6 8.9
メール・マガジン 1.8 1.8 8.4 9.1 6.7 5.8
情報誌・こうちさんぽニュース等の送付資料 9.5 11.7 20.9 19.8 28.9 16.8
利用内容の選択なし 89.3 82.9 66.0 63.5 57.8 73.0

業種別には、いずれかの事業の利用が医療・福祉でもっとも多く、金融・保険業で少なかった。医療・福祉は「情報誌等」、「研修」の利用が25%を超えており、「窓口相談」の6.0%も全業種の中でもっとも高率である。その他、金融・保険業の「研修」、製造業と建設業の「図書・ビデオ教材等」が多かった。(表24)
表24 当推進センターの利用状況(業種別)(複数回答)(%)

業種 医療
福祉
金融
保険
製造
小売
運輸
通信
建設 他の
事業
回答数 117 25 169 86 40 94 182
窓口相談 6.0 0.0 2.4 2.3 0.0 1.1 1.6
実地相談 3.4 0.0 1.2 0.0 0.0 0.0 1.6
研修 24.8 16.0 8.3 9.3 5.0 5.3 9.9
図書・ビデオ教材・測定機器など 12.0 4.0 12.4 2.3 0.0 9.6 8.8
メール・マガジン 12.8 8.0 3.6 4.7 7.5 4.3 4.4
情報誌・こうちさんぽニュース等の送付資料 31.6 12.0 13.0 10.5 15.0 13.8 16.5
利用内容の選択なし 56.4 84.0 71.6 81.4 77.5 78.7 75.3

当推進センター利用の有無別にみたメンタルヘルス対策の実施状況

当センターの利用の有無別にメンタルヘルス対策の実施状況を検討した。
メンタルヘルス不調者発生時の対応策を決めている事業場は、当推進センターの「利用あり」の38.0%に対して、「利用なし」は18%で大きな差があり、30人から99人の2群で差が大きかった。また、不調発生予防等の取組みについても、「利用あり」の70.8%に対して「利用なし」は33.4%で大きな差があり、従業員数別にも300人以上を除く各群で差を認めた。(表25)
メンタルヘルス対策の取組み内容についても、「スポーツ等の実施」と「健康診断での問診」は差が少なかったが、他の項目ではいずれも大きな差を認めた。(表26)
表25 当センター事業利用とメンタルヘルス事業の取組み(従業員数別)(%)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
回答数 168 111 191 197 45 722
<不調者発生時にそなえた対応策がある事業場(%)>
当センター
の利用
あり 5.6 31.6 38.5 44.4 47.4 38.0
なし 6.7 8.7 16.7 34.4 42.3 18.0
<不調発生予防等の取組みがある事業場(%)>
当センター
の利用
あり 33.3 36.8 67.7 84.7 100.0 70.8
なし 13.3 22.8 30.2 57.6 84.6 33.4

また、メンタルヘルス対策における外部機関の利用は、当推進センターを利用している事業場が「医療機関」をはじめいずれの機関でも多かったが、「カウンセリング機関など」や「会社の提携機関」では差が小さかった。(表27)なお、メンタルヘルス対策以外の利用はないもののメンタルヘルス対策では利用している事業場が全回答事業場中5事業場にみられた。
表26 当センター事業利用とメンタルヘルス対策の取組み内容(%)

当推進センターの利用 あり なし 当推進センターの利用 あり なし
回答数 195 527 回答数 195 527
従業員の教育・研修 34.9 11.8 健康診断での問診 17.4 10.4
担当者の研修 35.9 8.5 専門機関と連携 16.9 4.6
社内報等による啓発 26.7 9.5 管理・監督者の研修 15.9 6.1
スポーツ等の実施 15.9 9.3 衛生委員会での審議 34.9 11.2
相談の実施 31.8 13.7

表27 当センター事業利用とメンタルヘルス対策における外部機関の利用

当推進センターの利用 あり なし 当推進センターの利用 あり なし
回答数 195 527 回答数 195 527
医療機関 22.1 5.7 精神保健福祉センターなど 2.1 0.4
カウンセリング機関など 9.7 3.4 産業保健推進センター 21.0 0.9
会社の提携機関 6.2 3.0 その他 1.5 1.5

表28 当センター事業利用とメンタルヘルス対策指針等の周知(従業員数別)

従業員数(人) -29 30-49 50-99 100-299 300- 全数
<メンタルヘルス対策指針「知っている事業場(%)>
当センター
の利用
あり 0.0 36.8 52.3 66.7 63.2 52.3
なし 8.0 14.1 19.8 24.8 34.6 17.1
<メンタルヘルス対策支援センターを知っている事業場(%)>
当センター
の利用
あり 16.7 47.4 63.1 65.3 84.2 59.5
なし 9.3 15.2 16.7 17.6 19.2 14.8

メンタルヘルス対策指針の周知については、「知っている」事業場が当推進センターの利用事業場では52.3%であるのに対して、利用のない事業場では17.1%と差がみられた。規模別には、30人から299人までの各群で差が大きかった。(表28)
また、メンタルヘルス対策支援センターについても、「知っている」事業場が当推進センターの利用事業場では59.5%であるのに対して、利用のない事業場では14.8%と差がみられた。利用ありの事業場では、30人未満の16.7%から300人以上の84.2%まで従業員数が多いほど「知っている」が多いが、利用なしでは事業場の規模にかかわらず9-19%にとどまっていた。(表28)

まとめ

高知産業保健推進センターの登録事業場に対して、メンタルヘルス対策の現状や課題に関するアンケート調査を行い、722事業(回収率67.0%)から回答を得た。
2007年に実施した調査結果との比較を加えた主な結果は、以下のとおりである。

メンタルヘルス不調とその対応

過去3年間にメンタルヘルス不調者を経験した事業場は39.1%で、前回の34.0%より増加していた。また、現在休業中のメンタルヘルス不調者がいる事業場は12.2%であった。不調の内容として多い3項目は前回と同じで、そのうち「職場の人間関係」は前回より減っており、「長期休職」と「仕事への意欲低下」が増えていた。
不調者発生時の対応者は「上司」65.3%と「人事・労務」53.9%が多かった。専門職の関与は「産業医」22.7%、「保健師・看護師」12.8%で、「産業医」は前回の10.1%より増加していた。また、対応の内容については、「医療機関への受診を勧奨」が59.6%で前回と同様に多かったが、「本人と家族にまかせた」が25.3%から14.2%に減少した。

メンタルヘルス対策の取組みと課題

メンタルヘルス不調の発生にそなえた対応策を決めている事業場は23.4%、不調の発生予防等の対策には43.5%の事業場が取組んでおり、それぞれ前回の17.2%、38.9%に比べて増加していた。取組みの内容は「相談窓口の設置」や「従業員への教育・研修」が多く回答事業場の18-19%が実施していた。前回との比較では、「相談窓口」が増え、「スポーツ等の実施」と「健康診断での調査等」が減少していた。
取組み上の課題は、「人的余裕がない」38.0%がもっとも多いが、「取組み方が分からない」、「必要を感じない」もそれぞれ25.4%、22.2%にみられ、前回のそれぞれ27.9%、24.1%からわずかに減少していた。

メンタルヘルス対策における外部機関の支援

メンタルヘルス対策において外部機関を利用した事業場は25.7%で、機関別には「医療機関」10.1%、「産業保健推進センター」6.4%、「カウンセリング機関」5.1%などであった。また、平成20年度から開設しているメンタルヘルス対策支援センターを「知っている」事業場は26.9%であった。
外部機関からの支援への要望は「パンフレットなどの情報提供」25.9%が最も多く、以下「対策の進め方の相談」17.5%、「事例の相談」17.5%、「担当者への研修」17.2%などで、「研修への講師派遣」以外は前回より減っていた。また、どの項目にもチェックのない回答が前回の24.9%から44.6%へと増えていた。

メンタルヘルス対策指針およびメンタルヘルス対策支援センターの周知状況

厚生労働省のメンタルヘルス対策指針の周知については、「知っている」事業場は26.6%で、前回の20.4%に比べて増加していた。また、平成20年度から設置されているメンタルヘルス対策支援センターについても、指針と同程度の26.9%が「知っている」と回答した。

産業保健推進センター事業の利用とメンタルヘルス対策の取組みとの関連

メンタルヘルス対策以外のことで産業保健推進センターのいずれかの事業を利用したことがある事業場は27.0%で、事業別には「情報誌等の送付資料」が16.8%でもっとも多く、以下「研修」11.2%、「図書・ビデオ教材、測定機器など」8.9%などであった。なお、産業保健推進センター事業の利用事業場は、利用していない事業場に比べて、不調発生時及び不調の発生予防上の取組みが多く、メンタルヘルス対策における諸機関の利用、また、メンタルヘルス対策指針やメンタルヘルス対策支援センターの周知状況も良好であった。

事業場の規模別にみた特徴

  1. 過去3年間のメンタルヘルス不調事例、休業者ともに規模が大きいほど多く、事例の経験は前回に比べて30-49人及び50-99人の事業場で増加していた。
  2. 対策の取組みは規模が大きいほど高率に行われており、不調者発生にそなえた対策は100-299人で前回より増加し、発生予防などの対策は100-299人と300人以上で増加していた。
  3. 不調発生予防等の取組みの内容については、いずれも規模が大きいほど実施率が高く、前回と比べて、とくに100-299人で「相談の実施」と「従業員への教育」が増加していた。取組み上の課題の内容も規模別の差が少ないが、「必要を感じない」は規模が小さい事業場ほど多かった。
  4. 外部機関の利用は、「医療機関」と「カウンセリング機関」は規模が大きいほど多く、「産業保健推進センター」は30人以上の各規模の5-12%の事業場が利用していた。支援への要望はほとんどの項目で規模が大きいほど多く、要望項目のいずれにもチェックがない事業場が300人未満では規模が小さいほど多かった。
  5. メンタルヘルス対策指針は規模が大きいほど「知っている」事業場が多く、前回に比べて30-299人の各群で増加していた。メンタルヘルス対策支援センターについても規模が大きいほど認知率が高かった。

業種別にみた特徴

  1. メンタル不調者の経験は医療・福祉と金融・保険業に多く、建設業に少なかった。休業者も同様で、規模の大きい事業場が多い業種に多い。ただし、不調の内容や不調者への対応では、規模別の状況とは異なる業種ごとの特徴もうかがえた。
  2. メンタルヘルス対策の取組みは、金融・保険業でとくに多く、次いで運輸・通信業に多かった。不調事例の経験が多い医療・福祉は発生予防等の取組みは前回から増えているが、発生時の対応に関する取組みは全業種の平均程度である。
  3. メンタルヘルス対策における外部機関の利用は業種別の差が大きく、企業の規模や衛生管理全般における専門機関との連携なども関連していると思われる。支援への要望では医療・福祉で他の業種より高率の項目が多く、不調事例の経験が多い一方で対策がすすんでいない状況を反映した結果と思われる。
  4. メンタルヘルス対策指針の周知も医療・福祉が高く、建設業が低いなど、不調事例の経験が多い業種で高かった。メンタルヘルス対策支援センターについては、医療・福祉の認知率が群を抜いて高く、建設業が低率であった。

資料

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