調査研究結果

エチレンオキサイド滅菌作業におけるガス曝露防止対策に関する研究

2005年3月

主任研究者 高知産業保健推進センター所長   鈴木秀吉
共同研究者 高知産業保健推進センター相談員 甲田茂樹

はじめに

医療機関等におけるエチレンオキサイド(以下、Eto)を用いた滅菌作業は有害作業として労働衛生管理の徹底が求められている。当センターは昨年の調査研究事業で滅菌作業時のEto曝露状況を検討した結果、長時間曝露によるリスクより滅菌終了後の機器操作に伴う短時間曝露によるリスクの方が大きいことを報告した。今年度は滅菌終了後の機器操作におけるEto高濃度曝露に影響を与える要因を詳細に検討し、Etoを用いた安全な滅菌作業を行うための基礎資料を得ることを目的とした。

調査対象及び調査方法

Etoは医療機関だけではなく、様々な職場で滅菌作業に用いられているため、調査対象には四つの病院とリネン類の滅菌作業を行っている三つの事業所を選定した。滅菌作業の中でEtoを機器に充填する作業と滅菌終了後の被滅菌物を取り出す作業に注目し、検知管(北川式検知管及びEto用チューブNo.122SD、0.1-14.0ppm、光明理化学工業)を用いた簡易な「場の測定」、個人曝露サンプラー(3M、エチレンオキサイドモニター)を用いた曝露評価、リアルタイムモニタリングによる環境モニタリング評価(ポータブルVOC連続モニタ、RAE SYSTEMS)の3種類の方法を用いてEto曝露状況を評価した。なお、エチレンオキサイドによる健康障害を予防するための許容濃度については表1に示したが、慢性の健康障害を想定した8時間曝露の許容濃度だけでなく、急性・亜急性の健康障害を想定した短時間曝露の許容濃度や天井値の許容濃度が提案されている。

表1 Etoの許容濃度について*1:Time-Weighted Values(時間加重平均値)
*2:Sshort Time Exposure Limit(10~15分程度
*3:Ceiling Value(天井値)
勧告団体 長時間曝露 短時間曝露
ACGIH 1ppm(TWA *) 未提案
OSHA 1ppm(TWA) 5ppm(STEL*2)
US.CDC.NIOSH 0.1ppm未満(TWA) 5ppm(C*3)
厚生労働省 1ppm(管理濃度) 未提案
日本産業衛生学会 1ppm(許容濃度) 未提案

調査結果

Eto滅菌作業における検知管を用いたA測定を実施した結果、今回の調査対象となった事業所では管理濃度(1ppm)を超えた事例は存在しなかった。また、その際の長時間および短時間における個人暴露濃度を評価した結果を表2に示したが、Etoの許容濃度(TLV-TWA、TLV-STEL)を超える事例が数例観察されたが、全体の平均値で見る限りにおいては許容濃度を超えていなかった。

表2 Eto個人暴露測定結果について
長時間暴露(n=36)
0.127±0.295ppm(0.000-1.460ppm)
測定時間:439.4±56.4mins(263-513mins)
短時間暴露(n=7)
0.082±0.160ppm(0.000-0.423ppm)
測定時間:11.6±3.5mins(6-15mins)

しかしながら、ポータブルVOC連続モニタを用いた環境モニタリングの結果をみると滅菌終了後の非滅菌物を取り出す作業を行う際に200ppmを超える高濃度Etoに曝露する危険性が存在することがわかった。このことは滅菌およびエアレーション終了後にも非滅菌物に残留ガスがかなり存在していることを示唆しており、エアレーション時間の設定と非滅菌物の種類や性状に影響されている可能性があるため、これらを考慮して環境モニタリング結果を評価したものを表3に示した。表3に示したCeiling Valueの値はポータブルVOC連続モニタが測定中に示した最も高い値であり、STELの値は作業時間中に作業者が曝露する可能性のある10~15分間のポータブルVOC連続モニタで示された値の平均値である。なお、この際には個人曝露サンプラーによる測定も併行して実施したが、いずれも分析下限値以下であり、性格にSTELの評価は出来なかった。

表3 Eto短時間曝露に影響を与える要因の検討
測定値 エアレーション時間 滅菌装置と非滅菌物
Ceiling Value
200ppm 6時間 小型、チューブ類
200ppm↑ 6時間 小型、リネン類
120ppm 6時間 小型、チューブ類
87ppm 12時間 小型、チューブ類
22ppm 24時間 小型、リネン類
10ppm 24時間 小型、チューブ類
2ppm 24時間 小型、チューブ類
45ppm 18時間+1日放置 小型、リネン類
10ppm 24時間 小型、リネン類
STEL
10ppm 6時間 小型、チューブ類
9ppm 6時間 小型、チューブ類
8ppm 12時間 小型、チューブ類
2ppm 24時間 小型、チューブ類

考察

今回の調査対象として協力して頂いた事業所はいずれも法規通りの安全衛生活動を実施しており、問題を指摘されてこなかった。また、今回の調査結果からはEto検知管を用いたA測定や個人曝露測定結果でもおおよそEto高濃度曝露につながる危険性は見出せなかった。しかしながら、最近のEto災害事例の特徴でもある急性・亜急性中毒事例を考慮して短時間曝露の危険性を検討した結果、エアレーション時間が12時間未満である場合や非滅菌物がチューブ類やリネン類のようにEtoガスが残留する可能性が高い場合には、米国の勧告団体が提唱する5ppmの許容濃度を超えるケースが観察された。

従って事業所では法規によって要求される作業環境測定の評価を過信することなく、日常的に行われる滅菌作業では次の留意点を考慮すべきである。

  1. Eto滅菌装置のメンテナンス(配管接合部のリークの有無を含む)を怠らない
  2. エアレーション時間の設定は24時間が望ましい、
  3. 緊急時などで24時間未満に非滅菌物を取り出す必要がある場合にはドアを開けてから最低30分から1時間は近寄らない、
  4. 非滅菌物を取り出す際には防毒マスク、アイゴーグル、手袋を必ず着用する、

できれば現場ごとに安全作業マニュアルを作成すべきである。

病院などの滅菌作業が行われる職場では、SARS(重症急性呼吸器症候群)などに代表される新興感染症や院内感染症の課題を抱えるため、より安全な滅菌作業の確立が求められている。今回の調査結果を参考にして、できれば現場ごとにEto滅菌作業における安全作業マニュアルを作成すべきである。

なお、高知産業保健推進センターでは今回の調査研究結果を広く事業所に啓蒙普及させるために「エチレンオキシド~安全なガス滅菌作業を行うために」(高知産保リーフレット①)を作成した。

以上

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