職場におけるメンタルヘルス不調とその対策の現状(事業場調査)
2008年3月
はじめに
高知県の事業場における心の健康に関する問題(メンタルヘルス不調)の経験、及びその対応、また、厚生労働省のメンタルヘルスケアに関する指針が示されて数年余りを経ているなかで、指針の周知状況、一次・二次予防に関する対策の実施状況と実施上の課題、外部機関からの支援に対する要望を把握することを目的として、アンケート調査を行った。
調査対象・方法及び回収状況
調査対象及び調査・検討方法
調査対象は、高知産業保健推進センター(以下、当推進センター)の情報誌を送付している987事業場であり、郵送法による質問紙調査によって2007年8、9月に実施した。
調査票の質問項目は、1.過去3年間のメンタルヘルス事例の有無とその対応状況、2.メンタルヘルスの事例発生にそなえた三次予防的対応策、3.メンタルヘルス対策に関する一次・二次予防的取組み、4.メンタルヘルス対策に関する取り組み上の課題、5.メンタルヘルスケア指針(厚生労働省)の周知、6.メンタルヘルス対策における外部機関支援への要望、の6項目である。調査項目及び選択肢は、回収率を重視して簡単なものとし、一部の項目について先行調査研究と一致させた。
また、回収率が低いことが予想されたため、調査票を全対象事業場に対して約1ヶ月の期間をおいて2回送付することとした。そこで、集計にあたって同一事業場からの重複を避けるため、同一番号の調査票を2部作成し、あらかじめ各事業場宛2回分の送付用封筒を用意した。この番号の照合によって重複回収を確認したが、重複は13件に認められ、原則として1回目の回答を分析の対象とした。
なお、本調査は、産業保健調査研究倫理審査委員会による承認(平成19年5月31日、通知番号26)を受けた。
回収状況及び回答事業場の特性
回答は、重複分を除いて638事業場(64.6%)から得た。集計は、事業場規模(従業員数)別、業種別検討を基本とし、さらに、メンタルヘルス不調事例の経験の有無別及びメンタルヘルス指針の周知度別に調査項目間のクロス集計を行った。なお、事業場規模別の検討には、50人未満、50-299人、300人以上の3群の分類も用いた。また、一部の集計結果について、x2検定によって有意差を検討した。
回答事業場の従業員数及び業種は表1のとおりであり、事業場の規模別には、29人未満24.6%、30-49人が13.9%で、合わせて50人未満の事業場が38.5%を占めた。当推進センターの対象は原則として50人以上であり、有害業務を有する事業場に対して50人未満でも情報誌の送付等のサービスを提供した経緯があるが、当推進センターへの登録後、従業員数が減少した事業場が相当数あることがうかがえる。当推進センターの登録事業場という偏りはあるが、これらの小規模事業場の回答を得たことを本調査の特徴とし、50人未満、50-299人、300人以上の3群による比較検討を行った。
従業員数 (人) |
製造業 | 建設業 | 運輸・ 通信業 |
卸・ 小売業 |
金融・ 保険業 |
医療・ 福祉 |
その他 の事業 |
無回答 | 計 % |
-29 | 45 | 37 | 6 | 11 | 0 | 2 | 56 | 0 | 157(24.6) |
30-49 | 22 | 18 | 3 | 12 | 2 | 2 | 30 | 0 | 89(13.9) |
50-99 | 36 | 19 | 11 | 36 | 5 | 34 | 40 | 0 | 181(28.4) |
100-299 | 30 | 4 | 11 | 20 | 3 | 49 | 34 | 0 | 151(23.7) |
300- | 8 | 1 | 4 | 7 | 8 | 6 | 13 | 0 | 47(7.4) |
無回答 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 10 | 13(2.0) |
計 (%) |
141 22.1 |
79 12.4 |
35 5.5 |
87 13.6 |
18 2.8 |
94 14.7 |
174 27.3 |
10 1.6 |
638 100.0 |
調査結果及び考察
過去3年間のメンタルヘルス事例
メンタルヘルス関連事例の経験
“過去3年間にメンタルヘルス(心の健康)に関する心身の不調や業務上の支障が生じた事例を経験したことがあるか”を質問した結果、34.0%の事業場が「あり」と回答した。
また、事業場の規模別(従業員数別)には、30人未満の事業場の12.1%から300人以上の80.9%まで、従業員数が多いほど事例を経験した事業場が多かった。(表2)
従業員数(人) | 事業場数 | メンタルヘルス事例の経験 | |||
あり | なし | わからない | 無回答 | ||
-29 | 157 | 12.1 | 79.6 | 8.3 | – |
30-49 | 89 | 20.2 | 70.8 | 7.9 | 1.1 |
50-99 | 181 | 29.8 | 61.9 | 8.3 | – |
100-299 | 151 | 57.6 | 37.1 | 5.3 | – |
300- | 47 | 80.9 | 17.0 | 2.1 | – |
全数* | 638 | 34.0 | 58.8 | 7.2 | 0.2 |
なお、対象者数50人以上のメンタルヘルス関連事例の経験率は47.2%、100人以上では63.1%となる。他県等の50人以上の事業場を対象とした調査では、「過去3年間の経験」37.4%(回収率29.9%、以下同じ)、「過去5年間の事例発生」27.1%(36.4%)、100人以上については、「事例発生、困ったことの経験」40.3%(51.2%)、「関連した問題の発生」56.6%(55.9%)、「困ったこと」51.2%(36.8%)などがみられる。問題の内容、対象事業場の規模、回収率に差があるが、高知県におけるメンタルヘルス関連問題の経験率は、これらと大きくは変わらないものと考えられる。また、規模別に従業員数の多い事業場ほど事例経験率が高いことについても、他県の調査結果と一致していた。
業種別には、「医療・福祉」が62.8%の経験率で最も高く、次いで「金融・保険」の44.4%で、この2業種が平均を超えていた。(表3)
他県の調査では、「メンタルヘルスに関わる問題事例・相談事例」の経験率が平均22.1%に対して、「金融・保険」、「医療」はともに11%台で最も低いグループに入っている報告例がある。今回の調査では、「医療・福祉」及び「金融・保険」は従業員数100人以上の事業場がともに約60%を占め全業種平均の31%を大幅に上回っていることが、事例経験率が高い要因の一つとなっていると考えられる。
業種 | 事業場数 | メンタルヘルス事例の経験 | |||
あり | なし | わからない | 無回答 | ||
製造業 | 141 | 30.5 | 61.7 | 7.8 | – |
建設業 | 79 | 16.5 | 79.7 | 3.8 | – |
運輸・通信業 | 35 | 31.4 | 65.7 | 2.9 | – |
卸・小売業 | 87 | 28.7 | 63.2 | 8.0 | – |
金融・保険業 | 18 | 44.4 | 44.4 | 5.6 | 5.6 |
医療・福祉 | 94 | 62.8 | 31.9 | 5.3 | – |
他の事業 | 174 | 33.3 | 56.9 | 9.8 | – |
事例の問題の内容
事例の“不調や仕事への支障”の内容(複数回答、%は事例が事業場に対する割合)は、「職場の人間関係」が事例のある事業場の57.1%で最も多く、以下、「長期休職」41.9%、「仕事への意欲低下」38.2%などであった。(表4)
回答の多かったこれらの問題では、「職場の人間関係」については他県の多くの調査と一致するが、「長期休業」については「心の健康に関連した問題の経験」事例(経験率56.6%)について24.8%、「過去5年間の事例発生」(発生率27.1%)の調査で62.3%などの報告があり、調査による差が大きい。一方、「仕事への意欲の低下」はこれらの調査でもそれぞれ44.2%、45.3%で、今回の結果もほぼ同程度であった。
その他の項目では、「過労からの体調不良」22.1%、「仕事上のミス・トラブル」30.2%、「無断欠勤・遅刻・早退」22.8%、32.1%、「入・退院の繰り返し」11.2%などの報告例があり、今回の調査では、「過労からの体調不良」や「仕事上のミス・トラブル」が少なかった。
これらの状況には、経験率や発生率における「心の問題」の設定による相違だけでなく、後述のように項目によって規模別の差が認められることから対象事業場の規模による差も関わっていることも考えられる。
従業員数(人) | -49 | 50-299 | 300- | 全数* |
事例あり | 37 | 141 | 38 | 217 |
職場の人間関係 | 43.2 | 62.4 | 50.0 | 57.1 |
仕事への意欲低下 | 32.4 | 37.6 | 47.4 | 38.2 |
過労からの体調不良 | 10.8 | 14.2 | 7.9 | 12.9 |
仕事上のミス・トラブル | 10.8 | 10.6 | 21.1 | 12.4 |
無断欠勤・遅刻・早退 | 29.7 | 20.6 | 28.9 | 23.5 |
長期休暇 | 27.0 | 39.7 | 63.21) | 41.9 |
入・退院の繰り返し | 0.0 | 5.7 | 15.82) | 6.5 |
従業員数別には、「長期休暇」及び「入・退院の繰り返し」が300人以上で他の2群に比べて多く、差を認めた。また、有意差はないが、「仕事への意欲の低下」と「仕事のミス・トラブル」も300人以上で高率にあげられていた。(表4)
業種別には、「仕事に対する意欲の低下」が全業種38.2%に対して「金融・保険業」の87.5%、「卸・小売業」の56.0%が高率であった。
問題発生時の対応
“事例発生時に誰が対応したか”(複数回答、%:対事例あり)については、「人事・労務」64.1%が多く、「産業医」10.1%(選任義務のある50人以上の事業場では11.7%)、「保健師・看護師」16.1%であった。なお、「その他」の欄に9.7%の記入がみられたが、その約半数が「上司・管理職」であった。(表5)
従業員数別には、「人事・労務が対応」が50人未満で他の2群より低率で差を認めた。また、「産業医が対応」は300人以上が他の2群に比べて高率で差を認めた。(表5)
業種別には、「医療・福祉」で「看護師が対応」が多かった(p<0.05)が、他には注目すべき差を認めなかった。
他県の調査例では、「事例経験時の対応職種」あるいは「事例が起きたときの対応職種」として「直属の上司」が「人事・労務担当」と同程度の報告が多い。今回の調査では選択肢を設定しておらず、「その他」への少数の記入にとどまったものと考えられる。また、50人未満の事業場では、“誰が対応したか”への回答そのものが少なかったが、事業主等の選択肢の設定が必要であったと考える。
“事例発生時にどのように対応したか”(複数回答、%:対事例あり)に対しては、「病院受診を勧めた」が62.7%で多かったが、「本人と家族に任せた」も25.3%にみられた。(表5)
従業員数別には、「本人と家族に任せた」が50人未満の事業場で多かった。また、「病院受診を勧めた」は300人以上で多く、他の2群との間に差を認めた
従業員数 | -49 | 50-299 | 300- | 全数* |
事例あり | 37 | 141 | 38 | 217 |
人事・労務が対応 | 35.1 | 69.52) | 71.13) | 64.1 |
産業医が対応 | 0.0 | 8.5 | 23.71) | 10.1 |
保健師・看護師が対応 | 8.1 | 14.9 | 26.3 | 16.1 |
その他 | 5.4 | 8.5 | 16.2 | 9.7 |
病院受診を勧めた | 51.4 | 61.0 | 78.93) | 62.7 |
病院外の健診機関等に相談 | 5.4 | 5.7 | 13.2 | 6.9 |
本人と家族に任せた | 40.54) | 22.7 | 21.1 | 25.3 |
メンタルヘルスの問題発生にそなえた対応策
メンタルヘルスの問題発生にそなえた対応策
メンタルヘルスの事例が発生した場合に対する、三次予防に該当する対応策については、17.2%の事業場が「決まっている」と回答した。「検討中」の12.5%をあわせると、約30%の事業場が問題発生にそなえた対応策に取り組んでいることになる。(表6)
規模別には、「決まっている」事業場が30人未満の3.8%未満から300人以上の48.9%まで、規模が大きいほど対応策を多く決めていた。(表6)この状況は、事例の経験率と一致している。他県等の調査では、50人未満の事業場で5.8%の報告例があるが、今回の50人未満の平均は6.1%でありこれと同程度であった。
業種別には、「決まっている」が「金融・保険業」が61.1%で最も高く、以下「運輸・通信業」34.3%、「医療・福祉」27.7%などであった。(表6)業種別の事例経験との関係をみると、経験率は「医療・福祉」がもっとも高いが、問題発生時の対応への取り組みに関しては「金融・保険業」及び「運輸・通信業」がより高率であった。
従業員 数(人) |
回答事 業場数 |
問題発生への 対応策 |
業種 | 回答事 業場数 |
問題発生への 対応策 |
||
決まって いる |
検討中 | 決まって いる |
検討中 | ||||
-29 | 157 | 3.8 | 5.1 | 製造 | 141 | 8.9 | 12.1 |
30-49 | 89 | 10.1 | 11.2 | 建設 | 79 | 8.9 | 8.9 |
50-99 | 181 | 19.9 | 14.4 | 運輸・通信 | 35 | 34.3 | 11.4 |
100-299 | 151 | 21.2 | 17.2 | 卸・小売 | 87 | 10.3 | 18.4 |
300- | 47 | 48.9 | 17.0 | 金融・保険 | 18 | 61.1 | 5.6 |
全数* | 638 | 17.2 | 12.5 | 医療・福祉 | 94 | 27.7 | 17.0 |
他の事業 | 174 | 16.1 | 10.3 |
対応策の内容
対応策の内容は表7に示した選択肢について回答を求めた(複数回答)。「管理・監督者の対応、担当部署の役割を決めている」、「治療・休職・職場復帰について対応策を決めている」、「相談機関(病院など)を決め日ごろから連絡を取っている」がいずれも10%前後であり、事業場内でのシステムの共有化に重要と考えられる「マニュアルを作成している」は4.1%(26事業場)であった。(表7)なお、「検討中」の場合についてもこれらの項目別に回答を求めたが、各項目を通じて2-3%であった。
規模別には、いずれの対応策も従業員数の多い事業場で高率であり、300人以上の事業場は「マニュアル作成」は10.6%であったが、他の項目については23-34%が「決まっている」としており、他の2群より高率で差を認めた。
従業員数(人) | -49 | 50-299 | 300- | 全数* |
(回答事業場数) | 246 | 332 | 47 | 638 |
治療・休職・職場復帰について対応策を決めている | 3.5 | 9.6 | 25.51) | 9.2 |
対応のためのマニュアルを作成 | 1.2 | 4.8 | 10.6 | 4.1 |
明文化していないが管理・監督者の対応、担当部署の役割を決めている | 3.8 | 15.1 | 34.01) | 12.4 |
相談機関を決め、日ごろから連絡を取っている | 2.9 | 8.4 | 23.41) | 8.2 |
メンタルヘルス対策に関する活動
メンタルヘルス対策に関する活動の実施
“メンタルヘルス対策や心の健康づくりに関した何らかの活動を行っているのか”の質問に対して、38.9%の事業場が「あり」と回答した。(表8)
従業員数別には、従業員数が多いほど効率であり、50人未満では22%、50-299人は45%程度に対して、300人以上では74.5%が「活動あり」であった。(表8)
他県の調査では、33.8%、37.8%、45.4%、62.9%などの報告例がある。対象事業場の規模を考慮すると、今回の結果はこれらと大きな差のない結果と考えられる。
業種別には「金融・保険業」の88.9%が群を抜いて高く、前項の問題発生時の取り組みと同様の結果でした。次いで「運輸・通信業」の51.4%、「医療・福祉」の44.7%が多く、他の業種はいずれも33~38%であった。(表8)
従業員数(人) | 回答 事業場数 |
あり | 業種 | 回答 事業場数 |
あり |
-29 | 157 | 15.9 | 製造 | 141 | 34.0 |
30-49 | 89 | 32.6 | 建設 | 79 | 32.9 |
50-99 | 181 | 44.6 | 運輸・通信 | 35 | 51.4 |
100-299 | 151 | 47.0 | 卸・小売 | 87 | 37.9 |
300- | 47 | 74.5 | 金融・保険 | 18 | 88.9 |
全数* | 638 | 38.9 | 医療・福祉 | 94 | 44.7 |
他の事業 | 174 | 34.5 |
メンタルヘルス対策に関する活動の内容
活動の具体的な内容については、一次予防・二次予防的な対応として意義をもつ表9の7項目を選択肢とした(複数回答)。結果は、回答全事業場を母数とした場合「専門機関との連携」を除くいずれも12~17%の選択率で、項目間に差がみられなかった。(表9)
取り組み内容 | 選択率(%) |
(回答事業場数) | 638 |
従業員の教育・研修会 | 16.5 |
担当者(人事や安全・衛生管理者など)の研修 | 15.4 |
社内報・パンフレットによる啓発 | 11.8 |
スポーツ・レクレーションの実施 | 14.3 |
相談の実施 | 14.4 |
健康診断での問診(問診票に質問項目に入れるなど) | 13.6 |
事業場外の専門機関との連携 | 8.0 |
これを従業員数別にみると50人未満では7項目を通じて3~7%、50-299人では8~19%、300人以上では21~45%と、従業員数が多いほど高率で300人以上と他の2群との間に差が認められた。また、300人以上の事業場では項目間の実施率にも差がみられ、「従業員の教育・研修」、「社内報等による啓発」、「相談の実施」が40%台、「担当者の研修」が30%以上と高率で、これらの4項目の実施率は他の2群との間に差を認めた。(表10)
従業員数(人) | -49 | 50-299 | 300- |
(回答事業場数) | 246 | 332 | 47 |
従業員の教育・研修会 | 4.0 | 16.0 | 44.71) |
担当者の研修 | 5.8 | 17.8 | 21.3 |
社内報・パンフレットによる啓発 | 7.2 | 16.0 | 44.71) |
スポーツ・レクレーションの実施 | 3.8 | 13.3 | 31.91) |
相談の実施 | 4.0 | 19.0 | 40.41) |
健康診断での問診 | 6.1 | 15.1 | 25.5 |
事業場外の専門機関との連携 | 2.8 | 7.8 | 23.4 |
また、業種別に実施率が高い「金融・保険業」で多い取り組みは、「従業員の教育・研修」61.1%、「担当者の研修」55.6%、「メンタルヘルス相談」50.0%、「社内報・パンフレット」50.0%であった。
他県の調査では、従業員数100人以上の対象で、取り組みありに対する比率が「スポーツ・レクリエーション」50.0%、「相談の実施」35.9%、「パンフレット等による啓発」28.2%、「担当者等の教育」20.3%などの報告例がある。本調査の結果は、100人以上ではそれぞれ37.0%、25.9%、24.1%、24.1%で、これらに比べてやや低率であった。
メンタルヘルス対策における取組み上の課題
“メンタルヘルス対策や心の健康づくりへの取り組みが十分に行われていない理由、また、取り組み上大きな課題は何か”について、表11の選択肢によって回答を求めた。(複数回答)
もっとも多かったのは「人的余裕がない」の35.4%で、「時間的余裕がない」26.0%、「適切なスタッフがいない」20.4%などがつづくが、「取り組み方が分からない」も27.9%にあがっており、「必要を感じない」が24.1%にみられた。
従業員数別には、「時間的余裕がない」、「人的余裕がない」、「適切なスタッフがいない」、「経済的余裕がない」は50-299人と300人以上の差がなく、50人未満は「時間的余裕がない」を除く各項目で選択率が低かったが、これらの中で有意差を認めたのは50-299人との間の「適切なスタッフがいない」のみであった。
一方、「必要を感じない」は50人未満で、また、「プライバシーの確保が困難」が50-299人群で他の2群に比べて有意に多かった。なお、「取り組み方が分からない」は、300人以上でも約20%が選択していた。
従業員数(人) | -49 | 50-299 | 300- | 全数* |
(回答事業場数) | 246 | 332 | 47 | 638 |
必要を感じない | 27.51) | 16.62) | 4.3 | 24.1 |
取り組み方が分からない | 19.4 | 29.2 | 23.4 | 27.9 |
経済的余裕がない | 14.7 | 9.3 | 12.8 | 13.8 |
時間的余裕がない | 17.1 | 28.3 | 25.5 | 26.0 |
人的余裕がない | 24.0 | 37.3 | 38.3 | 35.4 |
適切なスタッフがいない | 11.0 | 24.4 | 21.3 | 20.4 |
プライバシーの確保が困難 | 11.8 | 25.3 | 10.8 | 20.7 |
他県の調査では、50人以上の事業場については「人的余裕がない」17.1%、「時間的余裕がない」26.0%、「経済的余裕がない」16.1%などの報告がみられる。一方、50人未満に対する調査では、これらのそれぞれについて41.4%、43.1%及び30.2%の報告例がある。今回の調査結果は、対象事業場の規模からみても、この両者の間にあり、とくに他県と異なる状況とはいえない。また、「プライバシーの確保が困難」は、50人あるいは100人以上で、31.9%、42.0%、50人未満で36.2%などの報告例がある。本調査の結果は低いことになるが、50-299人の群で高いことについては、さらに検討が必要である。
「取り組み方が分からない」は50人以上の調査で27.5%、43.2%、28.4%などの報告例があり、本調査の結果はこれらと大差がないと考えられる。一方、「必要を感じない」は50人以上あるいは100人以上で9.4%、63.5%、31.4%などがある。これらとの比較については調査年度の影響も考えられ、規模など対象事業場の特性とあわせた検討を必要とする。
業種別には、取組みの実施率がもっとも高かった「金融・保険業」は、「必要を感じない」が5.6%と低いほか、全項目を通じて選択率が低い傾向にあった。その他の業種間の比較では、「建設業」、「製造業」、「その他の業種」で「必要を感じない」、「運輸・通信業」で「プライバシーの確保が困難」、「卸・小売業」で「取り組み方が分からない」の選択が多いなどの傾向を認めた。(図1)
図1 メンタルヘルス対策・取り組み上の課題(業種別)
メンタルヘルス対策における外部機関支援への要望
“今後、メンタルヘルス対策を進める上で外部機関からの支援を希望するもの”として、表12の7項目を選択肢として回答を求めた(複数回答)。
全数では、「資料・パンフレットなどの情報提供」(以下、「情報提供」)が41.1%で群を抜いて多く、他の項目はいずれも14~23%で差が少なかった。
しかし、従業員数別にみると項目間の差が大きく、300人以上では「具体的な事例の相談」(以下、「事例の相談」)が44.7%、「講演・研修への講師派遣」(以下、「講師派遣」)38.3%が「情報提供」34.0%より多く、「担当者等に対する研修の実施」(以下、「担当者への研修」)も34.0%で「情報提供」と同じ選択率であった。他群との比較では、「情報提供」と「健診時等におけるメンタルヘルスに関する質問紙による調査」(以下、「健診時の質問紙調査」)を除く各項目で50人未満群との間、また、「事例の相談」と「講師派遣」は50-299人との間でも有意に高率であった。
一方、50-299人は、「情報提供」が47.3%と3群間で最も高率であったが、他の各項目は16~28%で差が少なかった。ただし、「健診時の質問紙調査」は26.5%と、有意差はないが300人以上の14.9%より高率で、この群の特徴と思われる。50人未満群との比較では、「事例の相談」と「健診時の質問紙調査」を除く各項目で有意に高率であった。
50人未満は各項目を通じて他の2群に比べて選択率が低かったが、「情報提供」に次いで、「健診時の質問紙調査」20.7%、「事例の相談」17.1%が高率であった。(表12)
従業員数(人) | -49 | 50-299 | 300- | 全数* |
(回答事業場数) | 246 | 332 | 47 | 638 |
メンタルヘルス対策の進め方に関する相談 | 10.6 | 24.71) | 27.71) | 19.0 |
具体的な事例の相談 | 17.1 | 23.2 | 44.71)3) | 22.1 |
メンタルヘルス関連の講演・研修の講師の派遣 | 7.7 | 16.31) | 38.31)3) | 14.3 |
メンタルヘルス関連の専門家・医療機関の紹介 | 11.0 | 19.02) | 25.52) | 16.1 |
担当者等に対する研修の実施 | 12.6 | 25.91) | 34.01) | 20.8 |
資料・パンフレットなどの情報提供 | 37.0 | 47.32) | 34.0 | 41.4 |
健診時等におけるメンタルヘルスに関する質問紙による調査 | 20.7 | 26.5 | 14.9 | 22.9 |
業種別にみると、「情報提供」は、いずれの業種でも最も多く、40~50%にあげられていた。取り組みの実施率が高い「金融・保険」では、「事例の相談」と「講師派遣」がそれぞれ44.4%、33.3%にあげられ、他の業種より高率であった。また、事例の経験率が最も高い「医療・福祉」では「担当者への研修会」が36%で最も多いという特徴がみられた。(図2)
図2 メンタルヘルス対策における外部機関への要望(業種別)
「メンタルヘルス指針」(厚生労働省)の周知
厚生労働省のメンタルヘルス指針については、「知っている」、「聞いたことがある」、「知らない」を選択肢として回答を求めた。なお、指針は平成18年(2006年)に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」になったが、年数を経ていないため括弧書きで平成12年(2000年)の「事業場における心の健康づくりのための指針」を例示した。
結果は、全数では、職場のメンタルヘルス指針を「知っている」が20.4%、「聞いたことがある」が40.9%であった。規模別には、従業員数が多いほど「知っている」が多く、30人未満では5.7%であるが、300人以上では66.0%と大きな差を認めた。「聞いたことがある」は、30-49人、50-99人、100-299人の3群では40%を超えているが、「知っている」と「聞いたことがある」を合わせた周知度も、従業員数が多いほど高かった。(表13)
他県の調査では、50人以上の事業場を対象としたものが多いが、「知っている」が47.5%、61.8%、72.1%などの報告があり、高知県における周知度が低いと考えられる。
業種別には、「知っている」は「金融・保険業」の44.4%がもっとも多く、次いで「医療・福祉」の33.0%で、他は20%程度までであった。ただし、「聞いたことがある」を加えた周知状況は業種間の差が少なかった。
従業員 数(人) |
回答事 業場数 |
メンタルヘルス指針 | 業種 | 回答事 業場数 |
メンタルヘルス指針 | ||
知っている | 聞いたこ とはある |
知っている | 聞いたこ とはある |
||||
-29 | 157 | 5.7 | 31.2 | 製造 | 141 | 17.7 | 41.1 |
30-49 | 89 | 10.1 | 48.3 | 建設 | 79 | 13.9 | 45.6 |
50-99 | 181 | 18.8 | 48.6 | 運輸・通信 | 35 | 22.9 | 45.7 |
100-299 | 151 | 29.1 | 43.0 | 卸・小売 | 87 | 17.2 | 41.4 |
300- | 47 | 66.0 | 21.3 | 金融・保険 | 18 | 44.4 | 33.3 |
全数* | 638 | 20.4 | 40.9 | 医療・福祉 | 94 | 33.0 | 42.6 |
他の事業 | 174 | 17.2 | 37.4 |
メンタルヘルス関連事例経験の有無別検討
事例経験の有無別にみたメンタルヘルス対策の実施状況
メンタルヘルス関連事例の経験の有無別に、メンタルヘルス対策の実施状況を検討した。
まず、問題発生時の対応策への三次予防的な取り組みをみると、「経験あり」群では、「対応策が決まっている」が27.6%で「経験なし」群の13.3%より高率であり、「検討中」の事業場もそれぞれ21.7%、8.0%と「経験あり」群が多く差を認めた。
ただし、規模別にみると、「対応策が決まっている」は事例の有無別の差がみられない一方で、「検討中」については経験あり群に多く差がみられた。過去3年間の事例経験を質問したため、経験が「検討中」により強く反映されたのかもしれない。一方で、事例を経験している事業場でも、約半数は問題発生時への対応に関する取り組みがみられていないことになる。(表14)
従業員数(人) | -49 | 50-299 | 300- | 全数* | ||||
事例経験 | あり | なし | あり | なし | あり | なし | あり | なし |
(回答事業場数) | 37 | 188 | 141 | 168 | 38 | 8 | 217 | 375 |
対応策が決まっている | 5.4 | 4.8 | 24.3 | 17.9 | 50.0 | 50.0 | 27.61) | 13.3 |
検討中 | 24.32) | 10.1 | 21.32) | 11.3 | 21.11) | 0.0 | 21.71) | 8.0 |
計 | 29.72) | 14.9 | 45.61) | 29.2 | 71.12) | 50.0 | 49.31) | 21.3 |
次に、問題発生時の対応を除くメンタルヘルス対策の活動については、「経験なし」の事業場の30.9%に対して「経験あり」では57.1%と多く実施されており、従業員数別ではいずれの階級でも事例の経験のある事業場の実施率が高い傾向を認め、30人未満では有意であった。(表15)
活動の内容については、事例経験のない事業場の実施率が各項目を通じて5~13%であるのに対して、「経験あり」は14~27%といずれの項目で高率であった。また、経験のある事業場で実施率の高い項目は、「担当者の研修」、「従業員の教育・研修」などであった。(表15)
従業員数(人) | 事例の経験 | 対策としての活動内容 | 事例の経験 | ||
あり | なし | あり | なし | ||
-29 | 36.82) | 2.8 | 従業員の教育・研修 | 21.71) | 12.5 |
30-49 | 44.4 | 31.7 | 担当者の研修 | 27.21) | 9.9 |
50-99 | 57.4 | 42.9 | パンフレットなど | 17.41) | 8.5 |
100-299 | 54.0 | 39.3 | スポーツ・レクレーション | 18.91) | 10.9 |
300- | 78.9 | 50.0 | 相談 | 15.71) | 9.1 |
全数* | 57.11) | 30.9 | 健診における問診票など | 19.81) | 11.2 |
外部機関との連携 | 13.81) | 5.3 |
事例経験の有無別にみた取り組み上の課題
取り組み上の課題については、「必要を感じない」が「経験なし」では32.5%と「経験あり」の11.1%に対して著しく多く、従業員数別にみても同様の傾向を認めた。他の項目では、事例経験の有無別に差が認められなかった。(表16)
取り組み上の課題 | 事例の経験 | |
あり | なし | |
(回答事業場数) | 217 | 375 |
必要を感じない | 11.1 | 32.51) |
取り組み方が分からない | 29.5 | 26.1 |
経済的余裕がない | 13.8 | 14.1 |
時間的余裕がない | 28.6 | 24.3 |
人的余裕がない | 39.6 | 32.3 |
適切なスタッフがいない | 22.1 | 18.4 |
プライバシーの確保が困難 | 19.4 | 21.9 |
事例経験の有無別にみた外部機関への要望
事例の有無別に外部機関への要望をみると、「質問紙調査」では差がなかったが、他の項目ではいずれも「経験あり」が高率で有意差がみられた。とくに、「対策の進め方の相談」、「研修の講師の派遣」、「専門家・医療機関の紹介」及び「担当者等への研修」の各項目は、経験あり群が2倍以上の選択率であった。(表17)
取り組み上の課題 | 事例の経験 | |
あり | なし | |
(回答事業場数) | 217 | 375 |
メンタルヘルス対策の進め方に関する相談 | 29.01) | 12.8 |
具体的な事例の相談 | 30.41) | 17.6 |
メンタルヘルス関連の講演・研修の講師の派遣 | 27.61) | 6.1 |
メンタルヘルス関連の専門家・医療機関の紹介 | 26.11) | 10.4 |
担当者等に対する研修の実施 | 33.61) | 13.6 |
資料・パンフレットなどの情報提供 | 47.02) | 37.9 |
健診時等におけるメンタルヘルスに関する質問紙による調査 | 23.4 | 22.1 |
メンタルヘルス関連の事例の経験と指針の周知状況
メンタルヘルス関連の事例を経験している事業場では、「メンタルヘルス指針を知っている」が多く、「知らない」が少なかった。(表18)
事例の経験 | 回答事業場数 | メンタルヘルス指針の周知 | ||
知っている | 聞いたことはある | 知らない | ||
あり | 217 | 33.61) | 37.3 | 26.7 |
なし | 375 | 13.9 | 43.0 | 38.4 |
メンタルヘルス指針の周知状況別検討
メンタルヘルス指針の周知状況別にみたメンタルヘルス対策の実施状況
メンタルヘルス指針の周知状況別に、メンタルヘルス対策の実施状況を検討した。
メンタルヘルス問題発生時の対応策については、「指針を知っている」事業場では「決まっている」が40.8%で、「検討中」を加えると半数を超えた。「指針を聞いたことがある」では、「検討中」が約20%にみられるものの両者で34.0%であり、「指針を知らない」では「検討中」を加えても12.2%であった。「指針を知っている」事業場では「決まっている」、及びこれに「検討中」を加えた割合が高率で、ともに他の2群との間に差を認めた。(表19)
また、問題発生時の対応以外の対策についても、指針を「知っている」事業場では、「聞いたことがある」あるいは「知らない」事業場に比べて活動のある事業場が有意に多かった。(表19)
メンタルヘルス指針 | 回答事業場数 | 問題発生時の対応策 | 他の取り組み* | ||
決まっている | 検討中 | 計 | あり | ||
知っている | 130 | 40.81) | 14.6 | 55.4 | 67.71) |
聞いたことはある | 261 | 13.8 | 19.2 | 34.02) | 37.9 |
知らない | 222 | 7.7 | 4.5 | 12.2 | 27.5 |
これらを規模別にみると、まず、問題発生時の対応策については、300人以上では指針の周知状況別に差を認めなかったが、他の2群については「知っている」と「聞いたことはある」の間に差がないものの、「知らない」では他の2群に比べて活動のある事業場が有意に少なかった。
また、メンタルヘルス対策に関する問題発生時の対応以外の一次予防・二次予防的な活動については、50人未満と50-299人の2群では「知っている」事業場が他の2群に比べて多かった。300人以上では「知らない」6事業場中5ヵ所は活動があり、指針の周知状況別に差を認めなかった。(表20)
従業員数(人) | メンタルヘルス指針 | ||
知っている | 聞いたことはある | 知らない |
-49 | (18) 22.22) | (92) 20.71) | (124) 5.6 |
50-299 | (78) 52.61) | (153) 39.22) | (88) 19.3 |
300- | (31) 77.4 | (10) 50.0 | (6) 33.4 |
-49 | (18) 50.01) | (92) 25.0 | (124) 17.7 |
50-299 | (78) 65.41) | (153) 44.4 | (88) 37.5 |
300- | (31) 80.6 | (10) 50.0 | (6) 83.3 |
問題発生時の対応策以外のメンタルヘルス対策の活動の内容については、指針を「知っている」事業場は、選択肢とした7項目を通じて21~43%に取り組んでおり、「聞いたことはある」の8~17%、「知らない」の5~10%に対して、すべての項目において他の2群に比べて有意に多く実施していた。「指針を知っている」事業場では、項目別には「担当者の研修」43.1%、「従業員の教育・研修」38.5%、「相談の実施」34.6%などが多かった。(表21)
取り組みの内容 | メンタルヘルス指針 | ||
知っている | 聞いたことはある | 知らない | |
(回答事業場数) | 130 | 261 | 222 |
従業員の教育・研修会 | 38.51) | 14.7 | 9.5 |
担当者(人事・衛生管理者など)の研修 | 43.11) | 16.52) | 7.7 |
社内報・パンフレットによる啓発 | 26.91) | 10.3 | 7.2 |
スポーツ・レクレーションの実施 | 23.11) | 9.9 | 8.8 |
相談の実施 | 34.61) | 13.3 | 8.1 |
健康診断での調査票など | 22.31) | 8.5 | 7.2 |
事業場外の専門機関との連携 | 20.81) | 8.0 | 5.0 |
「担当者の研修」や「従業員の教育・研修」は、事例経験のある事業場でも多くあげられており、これらや「相談の実施」は、300人以上での実施率が高いことをあわせて、メンタルヘルス対策が進展すると取り組まれることが多くなることがうかがえる。
メンタルヘルス指針の周知状況別にみた対策取り組み上の課題
取り組み上の課題としての「必要を感じない」は、指針の周知がすすんでいない事業場に高率で「指針を知らない」では36.0%が選択しており、他の2群との間に差を認めた。「取り組み方が分からない」も同様の傾向を認めたが、「聞いたことはある」は「知らない」に近く、「知っている」が有意に他の2群より低率であった。
また、「指針を知らない」事業場では、他の2群に比べて「経済的余裕がない」が高率、「人的余裕がない」及び「プライバシーの確保が困難」が低率であり、「指針を聞いたことがある」群では「適切なスタッフがいない」を高率に選択していた。(表22)
取り組みの内容 | メンタルヘルス指針 | ||
知っている | 聞いたことはある | 知らない | |
(回答事業場数) | 130 | 261 | 222 |
必要を感じない | 13.1 | 21.5 | 36.01) |
取り組み方が分からない | 16.21) | 29.5 | 35.1 |
経済的余裕がない | 9.2 | 13.4 | 25.72) |
時間的余裕がない | 26.2 | 28.7 | 31.5 |
人的余裕がない | 36.9 | 40.6 | 14.91) |
適切なスタッフがいない | 13.1 | 30.31) | 18.0 |
プライバシーの確保が困難 | 22.3 | 24.1 | 3.21) |
メンタルヘルス指針の周知状況別にみた外部機関からの支援への要望
外部機関からの支援については、いずれの項目でも指針の周囲がすすむほど選択率が高かったが、「対策の進め方の相談」、「健診時の質問紙調査」では3群間に有意差がなかった。他の項目では「指針を知らない」はいずれも「知っている」に比べて有意に選択率が低かった。「聞いたことがある」は「知っている」との間では差が少ない項目が多かったが、「講師の派遣」と「担当者等への研修」については優位に低率であった。(表23)
メンタルヘルス指針について | 知っている | 聞いたことがある | 知らない |
(回答事業場数) | 130 | 261 | 222 |
メンタルヘルス対策の進め方に関する相談 | 23.8 | 18.8 | 16.2 |
具体的な事例の相談 | 29.23) | 21.8 | 19.4 |
メンタルヘルス関連の講演・研修の講師の派遣 | 27.71)3) | 11.5 | 10.4 |
メンタルヘルス関連の専門家・医療機関の紹介 | 23.83) | 17.64) | 9.5 |
担当者等に対する研修の実施 | 30.82)3) | 20.7 | 16.2 |
資料・パンフレットなどの情報提供 | 45.43) | 42.7 | 35.1 |
健診時等における質問紙による調査 | 26.1 | 26.1 | 19.4 |
まとめ
調査結果の概要
高知産業保健推進センターの登録事業場に対して、メンタルヘルス対策の現状や課題に関するアンケート調査を行い、638事業場(回収率64.6%)から回答を得た。主な結果は、以下のとおりである。
- 過去3年間に「メンタルヘルス(心の健康)が関連した心身の不調や業務上の支障が生じた事例」を経験した事業場が34%にみられ、規模別には従業員数が多いほど、業種別には「医療・福祉」や「金融・保険業」で高率であった。
経験した事例の心身の不調や業務上の支障の内容としては、「職場の人間関係」、「長期休職」、「仕事の意欲低下」などが多くみられた。
- メンタルヘルス対策については、問題の発生にそなえた三次予防的対策を17%の事業場が決めており、13%が検討中であった。また、問題発生時以外の一次予防・二次予防的な活動については39%の事業場が実施していた。これらは、規模的には従業員数が多い企業ほど、業種別には「金融・保険業」が高率であった。
一次予防・二次予防的な活動の内容は、回答事業場全数では「従業員の教育・研修」、「担当者の研修」、「パンフレットなどによる啓発」、「スポーツ・レクリエーション」、「相談」、「健康相談時の問診」がいずれも12~17%で差を認めなかったが、取組みがすすんでいる300人以上の事業場では、「相談」、「従業員の教育・研修」、「担当者の研修」が多く、いずれも40%を超えていた。
- メンタルヘルス対策の取り組み上の課題としては、「人的余裕がない」が最も多くあげられたが、「取組み方が分からない」も28%あり、300人以上の事業場でも23%があげていた。一方で「必要を感じない」という回答も24%あり、従業員数が少ない事業場で多くみられた。
- メンタルヘルス対策における外部機関からの支援への要望では、「資料・パンフレットによる情報提供」が高率だったが、300人以上では「事例の相談」、「研修への講師派遣」が多かった。
- 厚生労働省の「メンタルヘルス指針」を「知っている」の回答は20%であった。規模別には従業員数が多いほど、業種別には「金融・保険業」と「医療・福祉」が「知っている」が多かった。
- 事例経験の有無別にみると、「経験あり」の事業場では「経験なし」の事業場に比べて「問題発生時の対応策が決まっている・検討中」、「メンタルヘルス対策の活動の実施」が多く、「取り組みの必要を感じない」の回答は低率であった。これらの傾向は、いずれの規模でも同様にみられた。一方で、「経験あり」の事業場でも、半数は問題発生時の対応策への取組みがなく、39%では他の対策も取組まれていなかった。
メンタルヘルス対策の内容については、「事例経験あり」の事業場では、「経験なし」に比べていずれの項目も実施が多かったが、とくに「担当者の研修」、「従業員の教育・研修」が高率であった。また、外部機関からの支援についても、「事例経験あり」の要望が多く、「研修会での講師派遣」、「担当者への研修」、「専門家等の紹介」、「対策の進め方の相談」、「事例の相談」が「経験なし」を大きく上回っていた。
- 「メンタルヘルス指針を知っている」事業場は、問題発生時の対応策やその他の対策に取組んでいるものが多く、「取組みの必要を感じない」や「取組み方が分からない」の回答が「指針を知らない」事業場より低率であった。
また、「メンタルヘルス指針を知っている」事業場では、「聞いたことがある」あるいは「知らない」に比べて、いずれの項目でもメンタルヘルス対策の活動が多く、とくに、「担当者の研修」、「従業員の教育研修」、「相談」などが高率であった。外部機関からの支援についても、「知っている」事業場の要望が多く、項目別には「担当者の研修」、「研修会での講師派遣」、「事例の相談」などが「指針を知らない」事業場よりとくに高率であった。
事業場の規模別にみたメンタルヘルス対策の課題
今回の集計で用いた、50人未満、50-299人及び300人以上の3群による検討結果から、規模別には以下のような特徴がみられた。
- 300人以上の事業場
- 80%が過去3年間にメンタルヘルス関連の問題事例を経験していた。しかし、「従業員の教育・研修」、「担当者の研修」、「(メンタルヘルス)相談の実施」など、対策が進んでいる群で多い取り組みや、問題発生時の対応策に取り組んでいる事業場は半数未満にとどまっている。また、課題として「取り組み方が分からない」を23%があげている。
- 一方で、メンタルヘルス指針は66%が知っており、外部機関からの支援についても「事例の相談」、「研修講師の派遣」、「担当者への研修」など、事業場内部での対策を踏まえた要望があげられている。
- メンタルヘルス対策に対する事業場内の理解が進んでいるところも多く、事業場内での活動推進に繋げる外部機関からの支援が求められる。「事例の相談」だけでなく「対策の進め方の相談」への対応、中央労働災害防止協会等の支援制度の紹介・活用の促進、また、先進的な取組みの紹介等が有用となる可能性が考えられる。
- 50-299人の事業場
- 半数が過去3年間に事例を経験しているが、対策が進んでいる群で多い活動や問題発生時の対応策に取り組んでいる事業場は10%台である。
- メンタルヘルス指針を知っている事業場は20%台であり、外部機関からの支援について「パンフレット等の情報提供」の要望が多い一方で「研修講師の派遣」、「担当者への研修」は少ないなど、300人以上に比べると事業場内での理解が進んでいないと考えられる。
- 事業場の理解を進める全般的な支援が必要であるが、事業場内スタッフとしての産業医及び衛生管理者への支援を通じた働きかけが期待される。この規模における取り組み事例の収集等による啓発資料の作成等も課題である。
- 50人未満の事業場
- メンタルヘルス関連の事例の経験率が低く、対策の取り組みが少ない。また、取り組みの「必要性を感じない」との回答も30%にみられ、外部機関からの支援への要望も少ない。
- 事業場の理解を進める全般的な支援が必要であるが、メンタルヘルス問題の経験が少ない、担当スタッフがいないなどから、産業保健(衛生管理)活動への支援を通じた働きかけは50人以上の事業場に比べて困難といえる。一方で、個々の事業場の問題経験率は低いが、事業場数を考慮すると相当数の問題事例が発生していると推定される。その対応に本人、事業場ともに苦慮していることが考えられ、問題発生時に相談できる機関・窓口等の周知が求められる。同時に、事業場内での取り組みへの支援を図る活動例の積み重ねが必要である。
調査票の作成及び調査結果の比較検討のため、以下の産業保健推進センターの調査研究報告書を参照した。
- 宮城産業保健推進センター:宮城県下企業におけるメンタルヘルス対策の実態についての調査研究報告書(H13.3)
- 東京産業保健推進センター:中小規模事業場におけるメンタルヘルス活動の現状と対策(H13.3)
- 愛媛産業保健推進センター:愛媛県の職場におけるメンタルヘルスケアの実態と向上策(H13.3)
- 新潟産業保健推進センター:中小企業におけるメンタルヘルス活動の現状とその問題点(H16.3)
- 滋賀産業保健推進センター:滋賀県内のメンタルヘルス需要と社会資源に関する調査研究(H16.3)
- 長野産業保健推進センター:事業場におけるメンタルヘルスケアの構築と活動に関する調査研究(H17.3)
- 大分産業保健推進センター:大分県の事業場におけるメンタルヘルス対策の実施状況及び働く人々のメンタルヘルスの現状について(H17.3)
- 岐阜産業保健推進センター:岐阜県における「メンタルヘルス指針」の実践に関する研究(H17.3)