産業保健情報誌「よさこい」2005.5月号より
高知産業保健推進センター相談員
門田労働衛生コンサルタント事務所長 門田 義彦
空気の流れ(風)は、作業環境の主要な要素です。風が直接当たることによって温度感覚が左右されるばかりでなく、有害物質は主として空気を介して人間と接触します。このため、空気の流れを機械的に制御します。したがって、事務所や作業場の空気の流れ(風速)を正確に把握することが作業環境管理のうえで重要となります。
当センターの熱線式微風速計ウィンド・ボーイISA-80などを利用すると、簡単に正確に事務所や作業場内の風速を測ることができます。
どのような時に測定するか
以下のような場合、特に微風速計を用いて風速を測定します。
- 分煙設備の効果確認(職場における喫煙対策ガイドライン)
- 事務所などの換気装置の機能確認(事務所則・ビル管理)
- その他クリーンルームの管理など
- 局所排気装置の風量確認(自主検査など)
熱線式風速計の原理
風速計の原理には、回転を利用したビラム式(風車)、圧力差を利用したピトー管式、熱拡散による熱式、光を利用したレーザ流速計や音波を利用した超音式などがあります。当センターの熱線式風速計は、熱式を測定原理としています。
熱線式風速計は次の仕組みで風速を測定します。まず熱線式風速計のプローブの先端にあるセンサーには、細い金属線が張ってあり、電気的に加熱しています。この金属線に風があたると熱が奪われて冷却されます。このように奪われた熱(熱損失)を電気抵抗の変化として計測して、熱損失と流速の関係から風速を測ることができるわけです。なお周辺の温度変化の影響は自動的に温度補償して取り除いています。
操作方法
スイッチの投入
電源スイッチ(POWER)を投入すると、しばらくスクロール表示がされます。スクロール完了後、測定画面が表示されます。中央に大きく風速(m/s)、下部に温度(℃)及びバッテリ残量が表示されます。
スイッチ投入後プローブを測定したい場所にかざしてください。この時プローブ先端の向きに注意してください。なお、測定対象とする風速は微少ですので、測定する人の体が測定場所の風を妨げないように注意してください。
ホールドキー
ホールドキー(HOLD)を押すと表示値が停止します。そのときに画面にはHOLDと表示されます。もう一度キーを押すと解除されます。
移動平均キー
移動平均キー(MOV.AVE)を押すと風速の移動平均を表示します。このとき画面にはMov.Ave.と表示されます、測定値の変動が大きく読み取りにくい場合に有効です。
60秒平均キー
60秒平均キー(60s.AVE)を押すと60秒間の平均風速が表示されます。画面には、次の平均値が表示されるまでの残り時間と60s AVEが表示されます。なお、60秒平均キーを押したあとにリセットキー(R・S)を押すとそれまでのデータをリセットして新しく60秒間の平均値を測定し始めます。
測定範囲外の場合
風速が測定範囲の下限0.05m/秒以下や上限の25m/秒以上の場合は、それぞれ画面にUNDERやOVERとともに「——」と表示されます。
なお、測定対象の空気は清浄でかつ温度範囲0~60℃(本体40℃)相対湿度20~85%が条件となっています。それ以外では正確に測定できないうえ故障の原因となりますので注意してください。
測定位置などについて
局所排気装置
有害物質を完全に捕捉することのできる風速(制御風速)以上の吸引風速をフードがもっているかで局所排気装置のフードの機能を確認します。
制御風速は有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則および粉じん障害防止規則等でそれぞれ定められています。作業場の局所排気装置がこれらの規則に該当する場合は、それぞれの規則に定められた制御風速以上の吸引風速をもつことが要件となります。加えて作業室に空調の吹出気流などがあるときは、この気流に打ち勝つ吸引風速であることを必要とします。
吸引風速を測定する位置は、局所排気装置フードの型式によってそれぞれ異なります。特に外付け式フード(有害物発散源がフードの外にある型式)の場合、フード開口面ではなく、「当該フードによって有害物質を吸引しようとする範囲内における当該フードの開口面からもっとも離れた作業位置(有害物質の発生する位置)」を測定します。
以上の局所排気装置の制御風速や測定位置については、「局所排気装置及び除じん装置の定期自主検査指針の解説」(中央労働災害防止協会 発行)などに記述されておりますので、詳しくはセンターの図書や相談員にお尋ね下さい。
分煙効果の確認
分煙対策として、喫煙室などを設置した場合、喫煙場所から非喫煙場所に向かってたばこの煙が流れ出さないことが必要となります。このため「職場における喫煙対策ガイドライン」では、空間分煙の要件として非喫煙場所から喫煙場所に向かって0.2m/秒以上の気流があることとしています。分煙効果の確認や維持管理のための測定には、喫煙場所と禁煙場所との境界(喫煙室の出入口など)の上部、中央部、下部の3点を測定点と定めています。また測定頻度は、分煙効果確認のために対策実施後1回、維持管理のために3か月に1度(1年経過後測定頻度省略可)としています。
まとめ
作業環境管理には空気の流れの管理が重要となります。特に局所排気装置や喫煙室などのように機械的に空気の流れを制御している場合、効果確認や維持管理のための風速測定が必要となります。当センターの熱線式風速計を利用して、正しい位置で測定すれば、容易に正確に空気の流れを把握でき、作業環境管理に役立てることができます。
以上